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三つのコンプレックスを兼用する兄






マイブラザーのお話。
名付け親は父親で名前は裕紀、歳は21で一浪しながらも大学に通っている何ら普通の兄。容姿も頭脳もまぁそこそこ良くて中の上から上の下ぐらいうん如何でも良いけどとにかく普通の一般人なのだ。無駄に家族愛を主張する以外は。このご時世親うぜーと声が行き交う中で私共家族(兄以外を除く)は兄うぜーとブログでも某掲示板サイトでひっそりとぼやくということもなく面と向かって言うほどのうざさ。何がうざいのと聞かれればそれはそれで困るんだけどもとりあえず「存在がうざい」という究極のうざさに達しない程にはうざいのだ。UZAIのだ。
シスコンでもありマザコンでもありファザコンでもある兄。コレを除けばただの普通の人。コレがあるから微妙にズレた普通の人。そんな兄がつい先程帰宅してきた際の第一声。

「兄ちゃんはお前を余所様の家にやる気はないからな」

我が家には常識に沿った発言が出来る人間は居なかったのだろうか。

「……………。」
「……………。」
「……はぁ…。」

橙色に染まる室内の中、無言でテーブルを挟んで向かい合わせに座る沢田くんと兄、裕紀。その間に鎮座する私。にこにこと胡散臭い笑顔の沢田くんに対して切れ長の目を更に細めて沢田くんを睨みつけている兄。一体どのくらいこの体勢が続いてるんだろうか。何と無く雰囲気的に正座をしなければならない状況だったので正座していたのだけど長い時間の正座は途轍もなくキツい。なので数分前に正座は止めて楽な座り方にした。加えて数十秒前、異様なほどの空気に耐えられずに背後のドアから出ようとしたら右手は兄に、左手は沢田くんにがっしりと両手を掴まれた。脱出不可能。その間も沢田くんと兄は見詰め合ったまま。泣く泣く部屋から出ることを諦めざるを得ない私は一刻も早く母達の帰りを祈ることしかできなくなったのだった。

「……おい、和雲」
「何すか」

ずっと沈黙したまま沢田くんにガン付けていた兄が話しかけてきたので素っ気無く返す。「突然帰って来た上に男連れって何だ」「何だって何が」「普通お前、一人だろ」「普通って何が」意味不明な兄の発言にイライラしながら答えていく。保護者代わりの弐織さんの代わりに沢田くんが来ただけなのだけれど何を履き違えているのか。

「ただの友達なんだけど」
「ただの友達…?」

とりあえずとんでもなくややこしいことになり兼ねない誤解を解こうと真実を述べると今度は沢田くんが不満げな声を上げる。新たな問題発生。「ただの友達ってなんだよ」「あ、じゃあ親友。マブダチとか」内心ドキマギしながら返事をするも更に沢田くんの表情は険しくなるばかり。

「俺は、」
「あぁぁぁあ!!」
「…何だよ」

咄嗟に沢田くんの声を遮った私を訝しげに見る兄と不機嫌オーラ全開な沢田くん。「俺は」の続きが簡単に予想出来たのでそれだけはと沢田くんの手を今度は自分から掴んでアイコンタクトで何とか別の言葉に摩り替えてもらおうと訴える。兄は「?」マークを浮かべたままテーブルの下と視線で起きている私の努力を知らない。知らなくていいけど。しばらく見詰め合っていると不服ながらも「…ただの友達です」と苦虫を噛み潰したような表情で言う沢田くん。それを見た私はほっと胸を撫で下ろす。兄はその発言に微妙に沢田くんに対する警戒心を解いたのか自分から自己紹介をしだした。それに倣って沢田くんも一応は名前を名乗る。幾分が和らいだ雰囲気に安堵していると母がようやく帰宅したのか玄関のドアが開いた音がした。

Avvelenamento di
colore primario

(母の帰宅の次は妹と父)




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