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無駄に紳士






「まぁ、まぁまぁまぁまぁ!」
「五回もまぁは要らないよお母さん」
「お邪魔します」

実家に帰って久々の母親とのご対面はこんな感じ。いきなりの娘(という表現は今となってはしていいものか迷うけど、まぁいいか)の帰宅に当然の如く驚いたお母さんは口をあんぐりと開けたままの状態で私と沢田くんを出迎えてくれた。「あなた一体……まぁ!」と声を張り上げる母親は私と沢田くんの繋がれた手の方向へ。あ、やばい「さ、沢田くん。手を!」「…ああ、忘れてた」なんてわざとらしい口ぶりと笑顔を浮かべながら手が解かれる。自由になった片手をぶんぶん振ってから(横で至極嫌そうな視線を感じたけど気にしない)

「た、ただいま」

ぎこちない笑みで呟く私。頬が若干引きつり気味である。訝しげに私を見る母の目が「突然帰って来た上に男連れとはどういうことなの」と訴えているような気がした。ただの妄想。どちらかというと「突然帰って来た上に男連れとはあなたもやるようになったわね」という意思の方が強く感じられた。これも私のただの妄想であることを願いたい。うちの母親は常識知らずでとんでもなくマイペースなのだ。隣では沢田くんが自己紹介でもしているのか母に喋りかけている。それと同時に母の視線は沢田くんへと移り私は母の視線攻撃から逃れることが出来た。自分から沢田くんの紹介をするのもかなり面倒くさかったので此処は一つ、彼に任せることにしよう。
弐織さんの話だと両親は元マフィアでファミリーの同志で、私がイタリアに居ることも、現地のマフィアスクールに通っていることも知っているらしいのだけど。果たして兄と妹はどうなのやら。知らなくても知っててもいい。知らなかったら聞かれない限りは話さなければいいし知られているのだったら笑って誤魔化せば良い。要はどう切り抜けて僅かな日常に浸るかだ。

「和雲」
「…んー?」

こつん、と頭を小突かれた後に我に返ると荷物を持ち直している沢田くんと目が合った。「上がれってさ」「あ、うん」一通り話が終わったのか母はリビングへと踵を返しているところ。「とりあえず二人とも二階に荷物置いてらっしゃい」二階、という辺り自分の部屋に行けということなんだろうか。一足先に階段へと足をかけた沢田くんの両手に持たれているのは二人分の荷物で、責めて自分のだけは持とうと声をかけると「断る」と一蹴された。一刀両断。撃沈。無愛想に紳士的な態度を取られても困る。

「ありがと」

とんとんと軽やかに階段を上がる音に混じって感謝の言葉を述べる私に沢田くんは「ああ」と短い返事を返す。

時刻は昼過ぎ、母国に着いてからの出来事。


Avvelenamento di
colore primario

(あれ、そういえば部屋は片付いてるのかな)




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