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空港にて恋人繋ぎ






数ヵ月前。
平和で穏やかで退屈で、だけど平凡で心地好い日常が崩されて想像もしなかった世界へと放り込まれた。
数週間前。
抗うことなんて無理なんじゃないかと思ってもやもやした気持ちを抱えながら、それでも戻りたいという願いは消えずにぐるぐる、そうぐるぐると様々な思いが胸の中を支配していた。
昨日。
今自分が立って眺める景色の周りには実は明日息が出来ているのかすらも判らないぐらい死が近い世界なんだということを実感。ただのうのうとお気楽に、飄々へらへら笑いながら怠けている隙なんてないということ、そして己の身を護る術を身に付けなければいけないんだということを知った。
そして今日。


「じゃ、行ってきます」

積み重ねてきた想いを清算するために私は一歩を踏み出すことにした。数ヵ月前とは違う心構えで空港で搭乗の手続きを取ってからの一言。「……一週間だけです」「十分だね」不服そうに呟く弐織さんを尻目に私は清々しい笑顔を向ける。騒めきながら通り過ぎる人の群れの中で立ち止まった私たちを時折何事かと視線を送ってくる通行人は無視しながら、

「くれぐれもボンゴレ十代目に迷惑はかけないようにしてください」

吐露された言葉に私はぎこちなく頷く。そうなのだ。今回は弐織さんと、ではなく沢田くんと空の旅に行くことになっている。いや別に一人でも良かったんだけど一人なら行かせねぇよ馬鹿野郎クソカス的な視線を弐織さんが纏ってしまって更には快く沢田くんも同行を良しとしてしまってこんな展開になってしまったのであった。冒頭なんか格好良く自分の思いをぶちまけたのに中間地点でもう台無しである。「うちの情けないボスを宜しくお願いします」「しっかり手綱は握っときますから」私は飼い犬か何かと聞きたくなるような発言をした沢田くんは宣言通り人の手をがっしりとこれまた恋人繋ぎなるもので握っている。首輪をされないだけマシかなと胸を撫で下ろす私も私であった。ていうか夏場じゃなくて本当に良かった。弐織さんは二、三言沢田くんと会話のやり取りをした後去っていく。あれ、私には何も言わないのか。別れの言葉をかけ終わってから空気のように扱われていた模様。それはそれで何だか悲しい。

「行くぞ」
「行くぞと言われても沢田くんが歩けば必然的私も歩かないといけないんだよね」

手がね、繋がってるしね。
着替えなどの大きな荷物はとっくの昔に預けてしまっているので必要最低限の持ち物が入ったバッグをからい直す。「それ持つけど」「遠慮しときます」沢田くんの気遣いを即丁重にお断わりしながら、二列で歩くには少し窮屈な人波を器用に擦り抜ける。ゲートはすぐそこでソレを通り過ぎたら、あとは母国への到着を座って待つだけ。「…そういえば沢田くんはあっちでは何処に泊まるの?」私は家があるからいいとして。ていうか沢田くんも日本に親御さんがいるのだからもしかしてそっちに泊まるんだろうか。「そんな面倒臭いことするわけないだろ」ぼそっと呟いた一言に呆れ口調で返されて黙る私を余所に、沢田くんはシニカルに笑いながら。


「お前の家に泊まるから」


いきなり家に帰るだけでも驚かせるのに見知らぬ男を連れ帰れと言うんですか君は。

Avvelenamento di
colore primario

(誤解される!)
(へぇ、俺は大歓迎だけど)




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