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明確になりそうでならない





すーはーと息を吸っては吐いて吸っては吐いて。無理矢理に、異常な程に酸素を吸引して深く、深く深く二酸化炭素を吐き出したらこの車内の酸素が薄くなったりしないだろうか。
酸素を必要以上に盗んで二酸化炭素という吸いすぎたら逝っちゃう!?空気を構築させている犯人は主に私です。むしろ一酸化炭素を吐き出せればいいんだけど、勿論無理だね。
吐き出そうと含んだ時点でHPは半減しまくりだろうよ。寧ろ死にます。儚い?

「すーはぁーすぅぅぅぅー!!!」
「…………。」
「はぁぁぁぁ…げほっ」
「……大丈夫ですか」

車内での相手の第一声は息を吐きすぎて噎せた私に安否を尋ねる言葉だった。
うん、というより攫う時点で大丈夫も糞もないよね判ってるのかな。にこりと「へーきですよ」と☆マークを語尾につけるくらいの勢いで言えば「そうですか」と素っ気無く返された。
会話終了。因みに今の私は正に空元気である。心の中は名も知らぬ人への不満やら疑念やら怒りやら恐れやら、色々混じっていたり、する。だって順応性低いもん。
…とか思える時点で実はかなり余裕、なのだろうか。
基準が判らなくて困る。そういうときは思考停止に限る。

「……………。」
「……………。」

あ、そういえば父母兄妹は私が攫われたことに気付いているのだろうか。電話、とかこの人する様子ないからきっとまだ知られてないとは思う。しかしながらこの人が仮に宇宙人とか超能力者だった場合テレパシーか何かを私のような凡人には分からないようなやり方で飛ばしていたとしたら知られているのかもしれない。非現実、現実逃避万歳。妄想しちゃう年頃なのですまる。
とりあえず此処は何処だろうと窓の外を見つめれば。

「空港…?」

空港、そう空港。飛行機がびゅびゅーんと重力に逆らって飛んで何処かに行っちまえる乗り物乗り場。国外逃亡はまだ早いような気がします。犯罪とさえ認識されてないかもしれないのに。
なんて早とちりな犯罪者なの!(犯罪者かどうかは不明だけど)
私の心の叫びなど無視して男の人は普通の駐車場に普通に車を止めた。普通車の山に紛れられないリムジンカー。こんな車を買えるほどのお金持ちが誘拐を働くとは…会社倒産?深読みし過ぎ?

「下りてください」
「……へい?」
「靴はそこにあります」

当たり前のことを普通に言われ逆に疑問が出て首を傾げる私に向かって座席の下にある靴を引っ張り出しアスファルトの地面に置いて履いて下りろと促される。
なんて親切な誘拐犯。紳士だなぁなどと思いながらマイペースに靴を履く。危機感が、全く感じられない私はおかしいのだろうか。嫌だ、変人の仲間入りなんて。嫌だな。
やがて両足とも私が靴を履けたのを確認するとその人は無理矢理に手首を掴み早足で歩かされた。ただし握る力は恐ろしいほど優しい。何処まで紳士?許可無く連れ去られていることを忘れてしまうようなそんな感じがした。いやいや、それはいけない。
そして空港内に入ると搭乗手続きをするのか受付へと向かう。勿論手を解かれることはない。
そういえば部屋着のままだ、と少し余裕の出来た頭の隅っこで考える。黒いスーツに(サングラスはもうかけてはいないみたい)身を包んだ若い男と明らかに釣り合わない服装の女という変な組み合わせにちらちらと視線を感じる。睨む度胸なんかないから放っておこう。受付の綺麗なお姉さんは頬を赤らめながらチケットを差し出していた。この人誘拐犯で私を人質に国外逃亡を図ってるんです(詳細不明)と鬼気迫る顔で言ったとしても大して相手にされないだろうな。恋する乙女は周りに無頓着になるのです。恋は盲目。とは言ったものの恋なんて5歳の頃に同じ幼稚園のY君を好きになりそして告白もしないまま親の引越しで離れて以来したことはない。実りようの無い初恋だったなぁ。んで、

「和雲様は先に乗っていてください」

絶句。

「え……?」
「私は連絡をしなければなりませんので、どうぞ」
「いや、ちょ、おい」

取り合えず乗るかどうかは後にして。
消化しないといけない疑問が、あるような気が。まず一つ。

「意味も判らないまま乗ってくださいなんてちょっと理解できないんだけど?」
「………あ」

そして何故名前を様付け?今気付きましたみたいな顔はしないで欲しい。そういう表情を浮かべたいのは私の方だ!この野郎と言わんばかりに握られていた手を振り解くと唖然としていた誘拐犯(今の時点ではまだ拭いきれない)ははっとして我に返った。

「説明を忘れていました…」
「顔に似合わずお茶目さん☆なんて言える状況でもないですね。どういうことだコラ」

こちとらパソコン消し忘れたりとかで苛立ちMAXなんだよね。冗談です、本当はそんなこと如何でも良かったりする。その前に思い出してみたらパソコン、画面真っ黒だったんだけど。
壊れた?

「いえ…それは私が細工したもので」
「細工?」
「早急に報せを示したかったものですから、こう回線を通って」
「………あのホラーめいた何かが報せだとぅ!?」
「ホラー?」

ちゃぶ台があったらばーん!と叩いてるかもしれない勢い。ひっくり返しはしないから感情の起伏はやや強いと言ったところ、だろうか。ていうか細工って何だ。報せってなんだ。でろでろでろと流れるようにして疑問がまた増える。二度目の思考混乱が生じています。顎をしゃくれさせて「ダーッ!!」と言える様な元気も残っていません。カウントする前にもうやめちゃおうぜ的な雰囲気。意味が分からない。
お互いにお互いを見詰め合ったまま(ロマンチックの欠片も無い雰囲気を漂わせて)沈黙すること数十秒。誘拐犯が行動を起こした。
ぱかり、携帯を開いて。ぽちっとボタンを押す。
とぅるるるるー、がちゃ。

「もしもし…ええ、……無事保護できました…ええはい……滞りなく、では」

ぶつり。ツーツーツー

「…さて、行きましょうか」
「……いや私への説明は!」
「後で詳しく」
「素敵なデジャヴが今頭を過ぎったよお兄さん」

我が家のうざったい兄貴より少し上くらいなその人は頬を人差し指で一掻きすると「あー…」と言葉じゃない音を出した。何を説明すればいいのか判らない模様。

「弐織と言います」
「にしき?日本名じゃん」
「父方の祖父がドイツ人なもので、瞳の色を言っているのならそれが理由です」
「ほうほう。で、弐織さん」

どうして私を誘拐宜しく拉致ったのでしょう。


Avvelenamento di
colore primario

(搭乗を促すアナウンスにて。)
(16時発イタリア便?)




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