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重たい拳銃






正直なところ、私は今のこの現状を受け入れたつもりは全くない。流されているふり、理解した風を気取っているだけで、流されているつもりも理解した覚えもないんだ。ただ単に他人がそう解釈しているだけ。へらへらと笑って過ごしながら中身ではどうすれば元に戻れるんだろうって考えてる。家族が偽家族とか知るものか。日常が恋しいんだ私は。お願いだから私をあの場所へ返して。………口に出して言えたら、どんなに良いことか。


「……気が付いたか?」

「……………沢田くん」


瞼を開けば視界の端に沢田くんが映る。ぼやけた視界ながらも沢田くんの方へと顔の向きを首を動かして返事をすると彼がほっと息を吐く様が見受けられた。「……外じゃない」周りを花々が彩り生い茂っていて見上げたら空がある筈の場所ではないことに気付いて呟くと「俺の部屋」と言われる。なるほど。

「中庭で気を失ってたお前をランボが見付けたんだ」
「……へぇ」

どうやら私は空をぼけーっと見上げたまんま意識を丸ごと飛ばしてしまっていたらしい。そしてそのまま沢田くんの部屋で寝ていたというわけだな、うん。とりあえずそこまで理解したところで急にそういえば腕を負傷していたなと思い出して患部を見たら包帯が巻いてあった。これも沢田くんがしてくれたんだろうか。お礼ぐらい言おうかなと寝ていた体勢から起き上がろうと、両腕を支えにしようとしたら「………ん?」何かを握っているような、感覚。

「……あー、それはな…」

沢田くんが説明しようと口を開くのも無視して毛布やら何やらで隠されていた腕と一緒に出てきた代物を見て、絶句。

「ってーい!」

そして変な掛け声と共にソレを投げた。ゴトンとかいう重々しい音を立てて床に落下するソレ。つまり、銃。

「………握ったまま離さなかったからそのままにしておいたんだけど…」
「……………」

遅くなった説明に耳を傾けながら私は黒光りする銃を見つめる。心なしかまた傷が痛みだしてきたような気もする。「…流石にやりすぎたってリボーンも反省してたぞ」沢田くんは申し訳なさそうに呟いた。「………別に良いよ」悪気がないのは判ってる。あの人は弐織さんに頼まれたと言っていたし。かといって弐織さんに怒りを向けるわけじゃあないけど。「きっと多分体力強化とかそういったことの為にああなったんだよね」「そうだな…」そこは判る。日頃の私を知る弐織さんだからこそ多少無茶をさせなければ私が本気にならないということを理解した上で起きたことなのだと。判ってはいるけど。

(……あまりにも度が過ぎてる)

わざとじゃないとは判っている。だけどそれと同時に判明したこともある。

此処の世界では、矢張り銃の撃ち合いやら凶器を扱って、日常とは違いすぎる「何か」が沢山あるということを。


全く識らないわけじゃなかった。
多少は理解していた。
だけど今回のことはその理解の許容範囲を軽々と越えてしまった。
それはこの世界に身を置く私にだって降り掛かる災で、私だってやらなければならない所業だということ。

銃を扱い血を流さなければ、生きてはいけない世界だということ。


「………和雲?」


─突然、怖くなった。
この場に居ることが。此処で息をしていることが。

「………帰りたい」

気付けばそう呟いていた。
帰りたかった。平穏過ぎて退屈過ぎるあの場所へ。ずっとずっと口には出せずにいた言葉が零れ出るほど、限界だった。身に染みて判るこの世界の恐ろしさに身体は震える。私が体験した恐怖なんてきっと凌駕する程の何かだって起こる可能性だって沢山あるだろうことを想像したりして、「…帰りたい」それが自分に降り掛かる前に、帰りたいと思った。何時もならば擦り抜けて躱す沢田くんの腕に抱かれながら。


「…………ごめん、沢田くん」



私、帰りたいや。

Avvelenamento di
colore primario

(君が息衝く、この世界から逃げたい)




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