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いざ、異境の地へ






「ねぇちょっと」
「何でしょう」

あっという間に週末、沢田くん達の巣窟ボンゴレ邸へと向かう日を迎えてしまい為す術もなく自称ボディガード兼家庭教師兼従者兼保護者の弐織さん(どんだけ兼ねてんだよ)に連れられて行きたくもない異境の地へと導かれていた。すまし顔でスタスタと斜め後ろ、近くも遠くもない距離を保ちながら私の後を着いてくる自称ボディーガード兼家庭教師(以下略)の弐織さんはボンゴレ邸へと着いた今でも傍を離れない。あわよくば逃走を試みようと意気込んでいた私としては非常に困る展開。


「もう一人で良いから帰ってください」
「いえ、一言挨拶だけでもしておかねばなりません」


至らない者ですがどうぞ宜しくと。

「至らないって誰が?」
「貴女に決まっているでしょう私自身に宜しくされても困りますので」

ふぅ、と呆れ混じりに吐かれた吐息。至らない主人ですいませんねと心の中だけで謝罪しながらまだ遠く見える馬鹿でかい屋敷を見据えた。全景を見回す限り渡り廊下を通路にして二つの建物に分かれているようで、それらの内一つに向かう私と弐織さん(早く帰れ帰れ帰れ)もう一つは、何だろうか。大抵予想はつくけど。ていうかでかい。



「──誰、君たち」


暫らく黙々と歩を進めていたら初めてボンゴレ内の人間らしき人物に出会った。だけど人相が宜しくない。そして身なりも。「………おおぉ」切れ長の瞳の奥がぎらりと光ったような気がして思わず後退り。喰われると本能が告げてるんだけど背中を向けて走りだしたらそれこそ一貫の終わりのような気がする。つまりは何も出来ずに立ち尽くすしかないのでした。黒の上着に付着した返り血のような赤い液体はもしかしてもしかしなくてもこの人が踏み付けてる人の流した血液だろうなぁ。「此処は部外者は立ち入ることは禁じられてる筈だよ」未だ倒れてる人を踏み付けたまま睨まれて思わずごくりと生唾を飲む。とりあえず距離を取ろうと一歩足を退かせたら今度は背後からがっしりと両肩を掴まれた。「…え」「申し訳ございません」明らかに私に紡がれた言葉ではないモノを吐くと同時に弐織さんは自分の背後に私を押し遣る。立場逆転。


「ボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥様ですね」
「………………」


何だコイツとでも言うかのように雲雀恭弥さんという御方は更に眉根を寄せて「そうだけど誰、君」と不機嫌の度合いを表す為なのかゲシッと踏んでいた相手を蹴る。その人の呻き声などまるっきり無視しまくって話を進める二人。神経狂ってるんじゃないのか。その間もゲシッゲシッと足癖が悪いのか単なる暇潰しなのか定かじゃ無いけど倒れ伏す人を蹴り続ける雲雀さん。鳥みたいな名前だ。ていうか可哀相だからいい加減止めてあげて欲しい。抗議しようものならこっちが標的にされそうだから言わないけど。やっぱり我が身が惜しいです。もう暫らく我慢して蹴られててください。世は無情とはこのことだ。若干意味が違う気もするけど。


「……ふぅん」
「ですので警戒心をといて頂きたいのですが」

私が勝手に物思いに耽って別世界へと思考を飛ばしている内に話の大半は済んだようで何とかこの場で地面と仲良くこんにちはする必要性が無くなりつつある模様。「確かに彼から客人が来るとは聞いているよ」一際強くゲシッと蹴った後飽きたのかようやく人の上ではなく地面に足を降ろしながらその人は言う。彼と代名詞を使われ表現された人は沢田くん、なのかな「で、君がその招待された客かい?」笑うでもなく細められた瞳の中に映されたのは先刻まで会話していた弐織さんではなく私の姿だった。

「………え」

突然話を振られてたじろいでしまう私を尻目に己の所定の位置へと戻ってしまう弐織さん。フォローしてくれる気は全くないようでどうやら自分で処理しろと目で訴えられた。「どうして私の方だと判ったんですか」エスパーだったら凄い「招待したのは女だって聞いてたからね」単なる沢田くんの情報漏れの無い発言のお力だっただけか。自然と足を前に進ませ邸へと向かいだす雲雀さんに倣って着いていきながら、幾分か雰囲気の柔らかくなった彼へ疑問を投げ掛けてみた。「さっきの人と何か揉め事でも起こしてたんですか?」背景になりつつある人間をちらりと眺めてみたらまだその場に倒れこんでいる。ふと編入して間もない頃、沢田くん不在の日に獄寺くんの後を昼休み中追っ掛け回していた時に見かけた喧嘩を思い出す。あの時もこんな感じで素通りしたなー。


「─言ったでしょ、部外者は立入禁止だって」

目線を前方に戻したと同時に言われ、じゃああの人も私達と同じようにボンゴレ以外の人間じゃなかったのかと聞けば、一応はボンゴレの人間の様でどうやら此処はボンゴレ内通者でさえも気楽に入れないような場所で守護者専用の邸らしい。「秩序を乱す人間は何人たりとも咬み殺す……それを実行したまでだよ」と正義なのか悪なのかどっちなんだと問いたくなるような雲雀さんの発言と「死んではいないようですよ、ご安心を」という若干ズレた内容の言葉を耳打ちしてきた弐織さん、二人の所為で本当の本当に帰りたくなった。

Avvelenamento di
colore primario

(ていうか日本に帰りたい)




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