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ノート/盗撮/ときめき






「クロームと話したんだって?」

授業中、珍しく私に構うことなく大人しく板書してあることを黙々かりかりとノートに書き写していた沢田くんが突然話題を提供してきた。若干うとうとしていた私の意識を覚醒させるかのようにこつん、と人差し指で机を小突く音にびく、と反応して顔を上げると案の定沢田くんの視線は黒板ではなく私に注がれている。「あー…うん」「そうか」会話終了。どうやらそこから話が拡がることはないようで沢田くんはまたかりかりとシャーペンでノートに文字を描いていく。ぼーっとしながら時間を確認するとあともう少しで終了かという時間帯。……流石にこのタイミングで寝てしまうのは何となく嫌なので眠らないように顔を上げた。そして下げた。駄目だ眠い。

「沢田くん、」

しょうがないので今度は自分の方から沢田くんへと話題を提供しようと話し掛けてみる。「何」と短い返答が返ってきた。視線はノートと黒板とを交互に行き交っている。集中しているのに邪魔するのはアレかなぁとか思ったけどそれは日頃私も邪魔されたりしているのでおあいこ、ということにしよう。自己完結。

「クローム、さんでいいんだっけ」
「んー」
「ちょっと聞き忘れたことを沢田くんに聞いていい?」
「答えられるかどうかは不明だけど。それでもいいなら」

教師の解説する声に混じって私と沢田くんのボリュームを低くした声が響く。ノートに書き写しながら私の話を聞く沢田くんは器用だなーと思ってから話の続きをしようと口を開くとタイミングが良いのか悪いのか授業終了のチャイムが鳴った。「─クロームさんが言ってた写真って何?」「写真は写真だろ」まぁそうなんだけど。要は何故私の写真が流通(とまではいかないかもしれないけど)しているのかってことで。そう告げるとあー、と何か思い当たる節でもあるのか沢田くんはシャーペン等を直しながら数秒沈黙した。返答を待つ私。そして会話が再開される

「─和雲も俺の持ってるらしいからおあいこ、だろ?」
「………どういう意味?」
「そのままの意味」

沢田くんは椅子を引いて立ち上がると同時にそう言った。理解がまだ出来なくて茫然と見上げる私に向かってシニカルに笑む沢田くん。「これ貸してやるからちゃんと写しとけよ」と言いながら先程まで使用されていたノートを渡される意味も判らない。

「あと今週末、絶対に予定入れるなよ」
「………え、何故」
「いいから」

約束だからな、と告げて教室から出ていく沢田くんの背中を見えなくなるまで見つめながら、手渡されたノートに視線を移す。気休め程度にノートを開くと懐かしい母国語でこっちでの授業内容が全て記されていた。未だ全ての言葉を理解しきれない私にとってはこのノートは途轍もなく貴重なもので頼もしい学習の助っ人になりそうだ。沢田くんの気遣いにちょっとばかりときめいてみる。あとでお礼を言わないといけないな。それにしても写真の件は一体全体どういう意味だったのか。

「…………ん?」

ふと、視界の端で何かが光った気がして辺りを見回すと「…やべ、フラッシュたいちまった…」と苦虫を噛み潰したかのような表情の獄寺くんが目に入った。「………獄寺くん」まさかとは思ったけどさ。


Avvelenamento di
colore primario

(だから盗撮だってば!)
(るせー!十代目の命令に逆らえるか!)




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