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ぶくぶくメール






ぶくぶくいうお風呂の中のお湯と一緒にぶくぶくしながら(ただ単に顔半分浸からせて口から酸素吐き出してるだけだけど)一日の疲れを癒す。ああ極楽極楽なんて言う間もなく眠たくなるけどこんなところで寝たら逆上せて気持ち悪くなっちゃうから寝ないように頑張っている。一度お風呂で逆上せたことがあるんだけどそれはもう酷いくらいの眩暈と吐き気と耳鳴りとの三重苦で着替えもろくに出来なくて倒れるかと思うくらいの苦しさを味わったことがあるのだ。あのときのことは未だに覚えてるんだよね。何で逆上せたか原因は忘れたけど。

「んー……」

ふ、と手元にあるモノに視線を落としながら響くくらいの大きな溜息を吐いた。今日も鬼のように厳しかった弐織さんは不真面目な私に対して唯一の安息の場である風呂場にまで勉強道具を押し付けてきたのだ。ザ・水に濡れても平気な単語帳。初めて見た。綺麗な字で綴られたソレを見るけど気分は最悪。温かさにボーっとしていた頭も冷める。severo、chiassoso、sciocco。厳しい。うるさい。馬鹿。覚えたての単語でお付き人を罵ってみました。正しいのかは不明。外国語って難しいね。「家が恋しいなぁ…」なんて今の我が家はこのただっ広い浴場を持つ豪邸、なんだけど。恋しいのはそう、母国のあの家で。皆、どうしてるんだろうか。父じゃない父に母じゃない母、兄じゃない兄、妹じゃない妹。元気だったらそれでいいかな。うとうとしながら考える。ああ、やばい。寝たら、逆上せる。

「…………」

―短時間で夢を見た。凄く過去の、それこそ自分がまだ日本語さえ流暢に話せなかった時代の記憶。初恋のY君も居たし大好きな先生や友達もいた。あの頃が一番幸せだったのかな。無邪気に何も考えずに。
相当精神が度重なる出来事に冒されて思考がそれを振り切ろうと過去の思い出でも引き出しているのだろうか。だったら相当やばいのかな、私は、大丈夫だろうか。
本当の親じゃないと知っても父は父で母は母で、血の繋がらないと知ったうざったかった兄も兄で可愛い妹も妹で。
状況を全て呑み込んで処理できるほど私の心は強くもないし、広くも無い。ギリギリで立っている状態だから、こんな昔の夢を見るのだろうか。
醒める前のY君の笑顔が忘れられない。

「……おえ」

そして起きる。案の定気持ち悪いようなだるい様な(同じ意味か)感じがして何で寝てしまう前にさっさと上がらなかったんだと後悔。だけどまぁそんなことは思うだけ無駄だというものでばしゃ、と顔を現在もぶくぶくいっているお湯の中に突っ込んで、顔を上げる。濡れた前髪から落ちた滴とは別の液体が目から零れた気がしたけど気にしないで二、三度顔を洗う。よし、じゃあ上がろうじゃないか。フラフラと浴槽から出て脱衣場に直行。ああ怠い。
着替えて広間に行くと弐織さんは誰かと電話で話しているようだった。邪魔するのも何なので無言で通り過ぎて自分の部屋へ帰る。充電しっぱなしの携帯を手にとってディスプレイに目を通すと、新着メール一件。送り主は獄寺くん。この前お近付きの印にメルアドを交換したのだ。
無理矢理。因みに沢田くんとは交換していない。理由?何となく聞く機会が無かっただけ。
件名が「今日の十代目」と表記されている辺り毎日一通は送られてくる沢田くんの写メ付きメールだろう。にしても私は別に沢田くんラブ!というわけじゃないんだけ、ど。獄寺くんは本当に沢田くんが大好きなんだね。だけどこんな代物を送り付けられても私はどうすればいいんだろうか。
待ち受けにでもしろと?嫌だ。そんなことをしたら沢田くんが何と思うか。かといって削除も出来ないのでちゃんと保存している。何か消してしまうと呪われそうで怖い気がするのは何でだろう。本文通り越して文末のその下、貼られている写メは明らかに隠し撮りと判る角度からで執務中らしい沢田くんが写っている。眼鏡かけてるけど目悪いのかな。伊達?老眼鏡?どうでもいいけど獄寺くん、隠し撮りはいい加減に止めて欲しいと思う。犯罪だから。とはいってもそもそもマフィアに犯罪とか常識を擦り付けても全く意味が無いけど。でもこれ、沢田くんが勘付いたら獄寺くん危ないよね。なんて考えながら写メを見つめる。沢田くんの背景には本棚があって、そこに黒い頭があった。心霊写真じゃない。何か調べ物をして本棚を漁っている様な後姿に見覚えがあるような気がして、私は暫くその部分だけを見つめていた。注意、別に沢田くんに熱烈な視線を送ってるわけじゃない。ただ、そう、何となく。沢田くんの後ろの人影に懐かしさを感じたのから。詳しくは不明。何でだろうと思考してふと行き当たった何かを振り切れば大したことのない出来事のような。うん、うーん。だって似すぎてるんだもんなぁ。

「夢の中のあの子、」

を大きくしたような、感じ。
まさかーとメール画面をクリアボタンをぽちっと押して何時もの画面に戻すと、間髪入れずにまた何かが受信されてきた。それと同時にドアががちゃりと開く。「夕食ですよ」「うぃーっす」

Sub 無題
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俺より先に獄寺くんにアド
教えてた事のお仕置きは
明日たっぷりするから
--------END--
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「…弐織さーん私明日学校休むからー」
「何言ってるんですか駄目ですよ、行け」

謎なアドレスの御人は沢田くん。


Avvelenamento di
colore primario

(怖いと懐かしいが入り混じります)




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