調理室からの甘い香り(蟹) * “そうだ、久しぶりにお菓子でも作ってみるか” そう思ったのは授業が終わった帰り際。 特に意味は無かった、といえば嘘になるかもしれない。 でもなんとなく、そういう気分になっただけだった。 そしていつも一緒に帰る哉太達に訳を言って別れると、陽日先生から鍵をもらい急いで家庭科室に向かった。 錫「・・・ふぅ、後は焼くだけか」 作りなれたレシピの為、紙を見ることもなかった そして手馴れた様子で型に流し込み、温まったオーブンに入れた ――チンッ! しばらくすると、焼きあがった音と共に甘い香りが家庭科室に広がる 錫「・・・うーん、出来はまあまあかな」 『えー、こんなにおいしそうなのに?』 なぜか居るはずの無い人物の声が聞こえた。 確か月子達と帰っていたはず・・・ 錫「え・・・名前?」 『そうだけど・・・?いつもとちょっと違う錫也を追いかけて来ちゃった!』 語尾なんかに☆が付きそうな勢いで言ってくるに呆れたような目を向ける。 すると、あー!またそんな目で見るー!!と怒るからはいはい、と頭を撫ででやると頬を膨らまし拗ねてしまった。 錫「・・・分かったよ;はいこれでもやるから機嫌直してくれよ」 『え!いいの!?ありがとう錫也』 お菓子で釣ってみると案の定、すぐにキラキラした笑顔をこっちに向けた。 名前は誰もかしもにこんな殺人的笑顔を振りまいてるんだな・・・・・・月子もだけど。 でも、この笑顔を見ると何か落ち着くんだよな・・・。 俺は名前の喜んでいる顔が好きだ。 今までもそう思いながら過ごしてきたのだから。 まあそこがオカンって呼ばれてるのかも知れないけど・・・ この笑顔をいつまでも守りたいって思ってる。 名前はこれからも俺達の・・・・・・いや、俺だけのお姫様なんだから―― 調理室からの甘い香り (もし、他の男を好きになったとしても) (迷わず俺は名前の幸せを願う) ・ [*前へ][次へ#] |