5 「ケット・シー、一体どこに行ってたのさ」 ニコは暖かい毛玉猫を抱きしめ、恨みがましくケット・シーを見つめた。 暖炉と燭台の蝋燭で照らされた薄暗い部屋のソファには、あの旅人が腰を下ろしている。 何かを考えいるのか、握りしめた手をぼんやりと見つめているようだ。 外套を脱いだ旅人はまだ青年といった風貌をしていた。 金糸が混ざったような薄茶の短髪に、優しい色合いのグリーン・アイ。 今は暖炉の中ではぜる火を映して、不思議な色をしているはずだ。 近くで見てみたいような、けれども怖いような。 ニコの中で不可思議な感情がせめぎあって、とても不安な気持ちになっていった。 道に迷い泊まる宿もないという青年が可哀想で、思わず城内に招き入れてしまったのだが… ケット・シー。お前がいてくれたら、きっとこんなバカなことにはならなかったのに。 ニコは思わずため息をついたが、ケット・シーは素知らぬ顔でしっぽを振るばかり。 「変わった猫だね」 「え?」 「君の言っていることが分かるみたいだから」 「普通は分からないものなの?」 彼は少し考えるふりをしてから、猫は飼ったことがないからと肩をすくめた。 「ケット・シーっていうんです」 「……君は?」 「僕?僕はニコ。あなたは?」 彼はどこか疲れたような笑みを見せた。 長い、とても長い一日を終えて眠りにつくような、そんな微笑を浮かべている。 「ヴィクトル、ヴィクトル・アンビエール」 ← [戻る] |