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こんなに霧が深い夜をニコは初めて見た。
ニコは誘われるように足を進める。
後ろを振り返るが城は見えない。
見えないほど遠くまで来たのか、霧が濃いためなのか分からなかった。
シュゼットに怒られるだろうな。
ニコはそっとため息をついた。
怒られたときはケット・シーに味方になってもらうことにしよう。
そんなことを考えていると、自分以外の足音があることに気付いた。
立ち止まると、もう一つの足音が近付いてくるのがはっきりと聞こえる。
「…シュゼット?」
返事はなく足音とニコの息づかいだけが辺りに響いている。
近付いてくる影を見つけようと目をこらすと、ニコの前方で黒い影がゆらりゆらりとこちらへやって来るのが分かった。
「だれ?」
足が震える。冷や汗も。今すぐ城に戻りたいが体が動かない。
城を出るべきではなかった。
ただでさえ今はシュゼットがいないのに。
「誰かいるのか」
男の声だ。
ニコはランプの持ち手を力いっぱい握りしめた。
霧の中から外套のフードを目深かに被った背の高い男が現れた。
表情は分からなかったが、フードから覗く口元が息をのむ。
男が何かに気付き、衝撃を受け困惑しているのが気配で分かった。
「あ、あの」
ニコは勇気を振り絞って声をかけた。
「シュゼットを、黒髪の女の人を見ませんでしたか?」
久しぶりにシュゼット以外の人間に緊張してしまって声が上擦る。
手のひらが汗で湿ってランプを落としそうになると、男の大きな手が持ち手をニコの小さな手ごと包み込んだ。
「気をつけて」
男がニコに向かってかがみ込んできたので、男の顔がランプの灯りに照らされる。
ランプの灯りが混ざって輝くグリーン・アイ。
昔見た万華鏡のような瞳が、優しくニコを見つめていた。
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