0 最初の記憶は、まぶたに乗せられたシュゼットの冷たい手のひらだった。 ひんやりとした指先がニコのまぶたをゆるゆると撫でていく。 ニコ、と。 名前を呼ばれて優しい手が離れていくと、淡いオレンジの光とシュゼットの美しい微笑。 黒い毛玉のようなケット・シーがニコのお腹の上に乗っている。 耳の裏を撫でてやると、なうと気持ちよさそうな声を上げるので思わす笑ってしまった。 鈍い疲労感を訴える体に、柔らかくて暖かい寝台はとても優しい。 やっと目が覚めたのね、ニコ。とシュゼットの姿がランプの灯りの中で浮かび上がっている。 どこか寂しそうな笑み。まるで泣いているようで胸の辺りがもやもやとし、ごめんなさいと謝る。 シュゼットの指先を握るとニコの中に孤独の波が押し寄せてきた。 冷たくて痛い波だった。 ごめんね、シュゼット。 もう一度心の中で謝った。 手を握っているから、きっと彼女にも伝わっているだろう。 そして、この古城での生活がニコの全てになった。 白バラと秘密 ←→ [戻る] |