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香り。

「冬は静電気で髪が傷むよにゃー」

部活前の部室で、突如言い出した菊丸の一言。
勿論、髪の短い俺は、そんな事微塵も気にしなかった。

「ほらっ!見てよ大石ぃ、ここなんて枝毛になっちゃってんだよ!」

「本当だな…でも、菊丸は元々癖っ毛だし、傷んでても分からないよ」

「にゃんてことを!プライバシーの侵害だ!人種差別だ!」

「菊丸、多分デリカシーがないって言いたいんだよね」

「そう、それが言いたいの!」

騒ぎ出した菊丸に、苦笑しか出来ない。
レギュラージャージに袖を通した所で、騒いでいた菊丸が海堂に飛び付いた。

「海堂もさー、気になるよね。髪のケアー」

「…別に、気にしないんスけど」

「だめだなー、海堂。男だって、髪のケアは大切だぞー」

「はあ…」

飛び付いたままの格好で淡々と話されるが、興味のないであろう海堂は大分生返事だ。

「ほら、菊丸。そろそろ離れろ。」

「はいはーいっと、」

お決まりの緑色のノートで叩いてやれば、渋々と菊丸が離れていく。
肩が軽くなった海堂は、ふしゅ、と息を吐き出していた(思っていたよりも、困っていたらしい)。

「…、枝毛」

「…は?」

着替えている海堂を観察していれば、さっきの菊丸の言葉もあって、ついつい気になってしまっていた。
何時もは艶やかな黒髪の中に、一本だけ。非常に不釣り合いに見える、枝毛。
ポカンと口を開けている海堂を気にせずに、髪に指を入れれば、思いの外痛んでいるようだ。

「結構痛んでるね…、」

「なんスか、乾先輩まで」

うざったそうに手を払われてしまうが、今はそんな事気にならない。
まさか海堂の髪が痛んでいるだなんて。そんな事思ってもみなかったらしい、乾はショックを隠しきれないようだ。
ガックリと落胆しているのが見て取れる。

「ちょ、何なんスか…っ」

「海堂、髪のケアは大事だよ。やっぱり」

「は?アンタまで、いきなりなんなんスか?」

着替えを終えた海堂が乾の方に振り返る。その顔は不信感と不機嫌が漂っていが、乾はそれを気にする余裕はない。
もう一度、海堂の髪に指を指し入れた。

「だって勿体無いだろ?海堂は綺麗な髪してるんだから…」

「…馬鹿じゃねぇのか?」

「馬鹿じゃないよ。海堂の髪、本当に綺麗なんだから」

あんまりにも真剣な顔、それでいて愛おしげに髪を梳くものだから。
海堂はさっと顔を赤らめた。

「、触んな」

もう一度乾の手を払い、グラウンドに出ようと背を向ける。

「ねぇ海堂。ちゃんとケアしてみないかー?」

「うるせえっ!」

思い切り乾を威嚇してから、乱暴に部室を後にした。
後ろで乾が叫んでいたが、目をつぶり聞こえないふりをした。





「…あれ?」

翌日の部活。部室には早くも着替え終わったらしい、ロッカーを閉めている海堂に遭遇した。
そんな事よりも、気になる事が一つ。

「海堂、シャンプー変えた?」

そう聞いてみれば、明らかに海堂の肩が跳ねる。図星だ。ドンピシャだ。
近くに寄れば、余計にふわりと甘い花の香りがした。

「…、」

上目使いにギロリと睨まれるが怖くない。得意げに笑っていれば、海堂の眉間のしわは更に深くなった。

「隠しても分かるよ。変えただろ」

「…シャンプーは、変えてねぇ」

ぼそりと呟いた海堂に、「あれ?」と声が漏れた。おかしな、確かに何か違うはずなのに。
そう思って首を傾げていれば、海堂は恥ずかしげに頬を染めた。

「…コンディショナー、使ったんスよ」

「ああ、」

通りで、香りが違うと思った。
まさかコンディショナーだとは予想していなかった。
そんな事を考えているうちにも、海堂はポツポツと言葉をつなぐ。

「でも、これ、母さんのだから…、その…」

そこまで言うと、海堂は顔を伏せる。顔色は伺えないが、隠せていない耳が赤く染まっているから、相当照れているのだろう。

「海堂、もしかして俺がケアしよう、って言ったから…」

「…、」

なんてことだ。可愛すぎる。
まさか自分の一声が鶴の一声になるとは思ってもみなかった。
俯いたままの海堂の頭に手を伸ばし、そっとバンダナを取り外す。
海堂の艶やかな黒髪がサラリと流れ、甘い花の香りが鼻を擽った。髪に指を差し入れれば、その指通りの良さにうっとりと口元が弛んでしまう。

「やっぱり、ケアすると全然違うな…」

「でも、女物使ったから…、臭くないッスか…?」

「まさか、凄いいい匂いがするよ。海堂に似合ってる」

「…ッス」

好きだらけな海堂の隙を狙って、髪の先にキスをすれば、大きく肩を跳ね上げた後で容赦のない鉄拳が飛んでくる。
至近距離のそれを避ける術はなく、見事なまでに頬にクリティカルヒットし、乾は床へと雪崩れ込んだ。

「ヒドいよ、海堂…」

「あ、あああアンタが調子に乗るからだ!馬鹿やろうっ!」

顔を真っ赤にして威嚇する海堂が可愛らしく見えるのは、惚れた弱みというものなのだろうか?
未だ鼻腔の中に残る海堂の香りに、自然と口角が上がった。


君の香り、
(それは自分専用の酷い有毒性)


「海堂…可愛いね、」

「死ねっ!」


ーーーーー

海堂からシャンプーの香りしたらそれだけで私の部屋は炎上出来る。それ位すごい破壊力を持つんだ。うん。
もはや殺人兵器だ。乾とか簡単に殺せるんだぜ。

海堂はリンスinシャンプーで済ますと思うんだ。リンスとかコンディショナーのぬとぬと感とか苦手そう。
でもシャンプーだけで髪さらっさら。流石は海堂。
だから海堂家には穂摘さんのコンディショナーしかおいてないに違いない。


H22.02.21


あきゅろす。
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