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可愛らしくリップ音。

無性にキスがしたいと思うときがある。本当に唐突に。そりゃあもう脈絡なんてものは在りはしない。ただ単純に本能的に第六感的にキスしたくなるのだ。
もしかしたらこれは雄としての本能なのかもしれないし、ただの中学生の性への興味だけなのかもしれない。

ただ、今確実に言いたいのは、俺が目の前に鎮座する薄らデカい同級生の男の唇に見事発情し、「ああ、ちゅーしたい」と思っている事だ。

「なんね、白石。そがんオレんこつば見つめてキモかねー」

酷い暴言だと心底思う。普段はクラスの女子や他の女子にキャーキャーと黄色い声を浴びせられている男に、いきなりキモいとは失礼だ。イケメン美男子極まりない俺に、キモいなんて台詞を吐くのはこの千歳千里とあの財前光くらいである(ま、謙也辺りにも言われとる気がするんやけどな。今はんなことスルーや、)。
そんなイケメン美男子白石蔵ノ介は、そんな酷い暴言を気にしている暇ではないのだ。

「なあ、千歳」

「なんね、」

目の前にあるカサついた薄い唇が喋る度に動く。ああ、ムラムラする。今すぐあのカサついた唇に貪りつきたい。意外とたまらないに違いない、潤ってないからこそいいんだ。きっとあのカサついた唇は俺の唇にジャストフィットするはず。
あー、ちゅーしたい。ちゅーしたい。ちゅーしたい。

「白石、どぎゃんしたと?」

「ふあっ」

いきなり声をかけられてビクリと肩が跳ねた。吃驚した。なんやねん、いきなり。吃驚するやん。吃驚して変な声でたやん。恥ずかしっ。

「なんやねん、」

「いや、白石がなんね」

「え、あ、あー」

まさかちゅーしたくって自分の唇見てムラムラしてました。なんて言えるわけがない。口が裂けても言えない。ど変態扱いされてもうたらどないすんねん。
歯切れ悪くカラカラと苦笑いをしていれば、「白石っちほんなこつおかしか奴ばい、」と笑われた。なんやねんそれ、腹立つわ。
腹の虫がイラッと鳴き声を上げたのが俺自身聞こえたし、ついでにまだ脳みそがムラムラ言っている。
だから、腹の虫のイライラと脳みそのムラムラに身を任せて、目の前のカサついた唇に吸い付いてやった。ちゅ、と音を立てたリップ音に、ジャストフィットした唇。まさに目の前で目を丸くしている千歳に、俺はへにゃりと笑った。


可愛らしくリップ音。

三秒後に飛んでくる強力なビンタなんて、今だけは気にしない。


ーーーーー

可愛くて気持ち悪いくらちとを目指すはずだったんだ。当初の目的を思い切り見失った気がする。

意外と乙女チックな千歳にど変態な白石って滅茶苦茶いいと思う。

H22.07.04


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