純白の世界で、君と。
「キラー?このリボンはここで良いと思います?」
「うん。いいと思うよ?……よしっ!あとはこの星を天辺に付けて完成〜!」
色とりどりのオーナメントやリボンで飾られた、大きなクリスマスツリー。
厳かな雰囲気の議長室には少々不適切な印象もあるが、それが「彼女」に笑顔を与えてくれるなら何だっていい。
「折角のクリスマスですのに、此処は普段と変わらず殺風景ですわね。…当然のことですけど、やっぱり何だか寂しいですわ…」
昼間、残念そうにそう呟いた彼女がとてつもなく悲しかった。
いくら議長と言えど、彼女はまだ若い。同い年の女の子達の殆どが、街でクリスマスを満喫するのが普通だろう。
なぜ議長というだけで、そんな自由さえも奪われなければならないのか───……腑に落ちなかった。
そんな訳で僕は急遽街へ出掛け、ツリーと飾りを買って来て彼女にクリスマスツリーの創作を提案した。
大して仕事が溜ってる訳でもないし、それくらいならイザークも目を瞠ってくれるかな、ってね。
「キラ!わたくしが星を付けても宜しいですか?」
子供みたいな笑顔ではしゃぐラクス。
可愛いっていうか……反則ものだ。
「いいけど…危ないから気を付けてね?」
「大丈夫ですわ♪──よいしょっ……と」
ラクスは脚立に登って、ツリーの先に星のオーナメントを取り付ける。
「「完成〜!!」」
二人は笑いながら拍手をした。
「ほら、ラクス。危ないから早く降りておいで」
「はい…………っ!?」
そう言われて、降りようと下を見た瞬間──足がすくんでしまった。
登った時は高く感じなかったのに、何故か地面が果てしなく遠く見える。
「ラクス……?」
「………っ………」
──どうしよう。
自分から進んで登っておいて、「降りるのが怖い」なんてとても言えない。
「………ぷっ」
「…………?」
「怖いんだ」
「……!!//ちがっ…!!」
「身体が震えてますよ?クライン議長」
「〜〜〜っ!!!//」
強がりで意地っ張りな君を、僕が見抜けないとでも思ってるの?
「ぇーと…ぁのっ……ちょっと足が痺れてしまいまして……っ」
必死で言い訳をするラクスをよそに、キラは脚立を登る。
すると、みるみるうちに近付くキラの顔。
「ぁの…っキラ……?」
「動くと落ちますよ?クライン議長」
「な……っ!//ん…っ」
重なる白と黒の身体。
不安定な場所ゆえ、ラクスは身動き一つ取れない。
──キラは、狡い。
「ん……っは……ぁ…//やっ…も……しつこっ…//」
「…嬉しいくせに」
「っ……!!!//──っきゃ……!!??」
キラは笑いながらラクスを抱え、脚立から飛び降りた。
突然すぎて驚いたが衝撃は何も無く、キラの身体能力を改めて尊敬してしまう。
「…あ……ラクス!外見て!」
「え……?まぁ…!雪ですわ!」
二人は窓に駆け寄って、外を眺めた。
銀色の粉雪が、街を優しく包み込んでいく。
「キラ…今日は本当にありがとうございました…」
「どういたしまして。僕は君の為なら何だってするよ?例えば…」
「それはどうも」
「…交わすのが上手くなりましたね、クライン議長」
「お陰様で、何年も貴方に鍛えられましたから」
暫しの沈黙のあと、二人は互いを見合わせて笑った。
そして、どちらからともなく唇を寄せ合う。
───“Merry Christmas”
純白の世界で、君と。
END.
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