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独り言



「おみやげです」


差し出されたわたあめの袋を受け取って、足立は眉を顰める
どこからわたあめ?と考えて、そういえば今日はあの自称なんたら〜の面子と堂島さんたちと夏祭りに行くって言ってたことを思い出した


「…ありがと」

「ラブリーンとフェザーマンので悩みました」

「なんでわたあめを選んだのか聞いてもいい?」

「食べるのに苦戦する透さんが見たいです」

「お前が食べろ」


袋ごと押し返してついでに湊も追い出そうとする
たまにこういう子供じみた悪戯をしたがるところはやはり年相応かなと思いつつ


「ごめんなさい嘘です。仕事明けだし疲れてるかと甘いもの選んだだけです」

「…嘘っぽい」

「本気で謝りますから入れてください」


ぎゅうと掴んでくる手を振り払い、仕方なしに部屋へ招き入れてやる
ここで問答をしてもどうせいつものように押し切られるのだ
仕事でくたくたなのにこれ以上疲れたくない


「ご飯食べました?」

「これから」

「じゃあ用意しますから座っててください」

「その間に風呂入ってくる…」

「寝ちゃだめですよ?」

「たぶんだいじょーぶ…」


時間が時間なこともあり、かなり眠い
本当は食事もなしにしてしまおうかと思っていたのだが、湊が来た以上それを許してはくれないだろう
脱衣所で服を脱ぎながらふと鏡に映った自分の顔を見つめる
眠そうな表情ではあるが、顔色は悪くない

(そりゃあれだけ湊くんが身の回りの世話してくれてりゃね…)

何回か面倒くさくて食事を抜いたこともあった
それがばれてからというもの、夜こちらに来れないときは毎晩のようにちゃんと食事をしたのかと電話がかかってくる
食べていなくても食べたと答えてしまえばいいように思うが、その度に味付けはどうだっただの感想を聞かれるのでそうやって誤魔化すわけにもいかない
仕事で戻れなかったから、はさすがに許してくれるのだが、そんな日が続くとじゃあお仕事落ち着くまではお弁当にします!とか言い出すのだ


「…はー」


少し温めのお湯をためておいた浴槽に身を沈めると、足立は緊張をほぐすように大きく息を吐いた


「頭洗うの面倒だな…」

「ちゃんと洗ってください」

「なんで聞いてんの!?」

「着替え、ベッドの上に忘れてましたよ。置いておきますから」

「あ、うん、ありがと」


独り言に返事されると思いっきりびっくりする
驚きに跳ねた心臓を宥めながら、足立はとぷんと頭まで浴槽に沈み込んだ

(着替え持ってきたとか言ってたけど、聞き耳立ててたとかじゃないだろうな…やりかねない…)

ぷくぷくと泡を吐き出して湯の中で目を開けると、揺らいだ視界が少しだけ向こう側に似ているように感じて笑いがこみ上げる
事件を解決しようと躍起になっている湊が、事件の最も昏いところにいる足立を好きだと繰り返すのだ

(茶番もいいとこだよ。全部知ったらどんな顔するのかな)

好きだといったその口で自分を非難するのだろうか
優しく触れてきたその手で、自分を殺そうとするのだろうか
そう考えてまた笑う

(お前なんかに殺されてあげないけどね)

どうせ湊が好きだといっているのは、堂島の同僚で面倒くさがりでちょっと間の抜けた足立透なのだ
本当の自分を知ったら絶望するのだろうか
そんな足立は足立じゃないと言うのだろうか
その時の顔を見たいと心底思う

(きっとサイコーに気持ちいいだろうな)

笑い声が泡になって口元を滑る
それに息苦しさを覚えてそろそろ水面に出ようかと考えた刹那
慌ただしい音がして腕を掴まれそのまま水面に引きずり出された


「透さん!?」


珍しく焦りの色を色濃く出している湊と、状況を把握できない足立の視線が交わる


「みなと、くん?」

「寝ちゃだめだって言ったでしょう?!返事がないから変だなって思ったら案の定…」

「寝てないよ」

「じゃあなんで沈んでるんですか」

「…気分?」

「……怒りますよ?」

「でも寝てないのはホントだって。ちょっと考え事してただけ」


内容は絶対に言えないが
へらりと笑うと、怒ったような表情になった湊が足立の頬を打つ


「ちょ!…え?」


叩かれたことに文句を言おうとするより先に、そのまま抱きしめられた


「…濡れるよ」

「わかってます。…お願いですから危ないことしないでください…」

「危なくないよ。ちゃんと苦しくなったから出ようかなって思ってたし」

「危ないです。…聞き分けてくれないと、ここでキスしますよ」

「やめてこの状況でとか洒落になんない」


言うまでもなく風呂に入っている足立は素っ裸だ
変な雰囲気になったときに身を守る鎧がない
なし崩し的に何かが起きても逃げようがない


「じゃあ、次同じことしてるの見付けたらキスしますから。問答無用で」

「…わかったよ」


ここは承諾せざるを得ない
このままでいると湊がいつ暴走するかわからない
落ち着いているように見えてもこいつは高校生の男なのだ
思春期の男なのだ
なにがきっかけになるかわからない
そう素直に頷くと、すぐさま足立は両手で湊の目を塞いだ


「…透さん?」

「わかったからそのまま出てってくんないかな?さすがに裸の付き合いにはまだ早いよね?」


諭すようにそう語りかけると、湊ははたと気付いたように頷いた
頷くな目隠しがずれる
そう足立は慌てるが、湊はまったく意に介した様子もなく


「ええと、脱げばいいですか」

「早いよねって言ってんのに脱ごうとするな!」

「見てしまったお詫びに俺のも見てもらえばおあいこかと」

「それ僕は損しかしない!見たくない!!」

「大丈夫です。自分で言うのもなんですが、俺脱ぐと結構すごいですよ」

「脱ぐなって言ってんの!」

「でもせっかくですし」

「なにがどうせっかくなのかわからないよ!」

「じゃあこの際ですから?」

「この際もどの際もいらない!」

「そんなに照れなくても」

「これが照れてるように見えるなら君の眼球はゴルフボールだよっ」

「そこはガラス球とかでしょう」

「そんなツッコミいいから、出・て・け!!!」


すったもんだの末なんとか湊を風呂場から追い出すことに成功した足立はぐったりとため息を吐いた


「…疲れた…」





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ちゃんとこの後ご飯も食べました
番長は空気を読んで雰囲気をぶち壊すのが得意です




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あきゅろす。
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