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P4
そんな日常



「………」

「こんにちは透さん」


鳴り止まないチャイムに不機嫌を隠そうともせずドアを開ければ、
対照的に上機嫌そうな湊の姿
提げていたジュネスの袋を持ち上げて足立に押し付けると
湊は目線だけで睨みつけてくる足立の脇をすり抜けようとする


「っ、ちょっと君!誰も上がったらなんて言ってないでしょ?!」

「入れてくれないんですか?」

「…なにしに来たのさ」

「今日非番だって言ってましたよね。でも買い物行ってないから冷蔵庫空だなーとも」

「…言った、けど」

「ご飯、作りにきました」

「頼んでないし」

「そうやって言ってくれないから先回りです」


ああ言えばこう言う
足立は肩を押してくる湊を追い返すのを諦めて小さくため息を吐いた
ここで押し問答をしていたところでいずれ押し切られるのはわかっているし
それならば近隣の住人に見られる前にさっさと上げてしまった方がいい


「…なに、作ってくれるの」

「なにがいいですか?すぐ食べられるものの方が?」

「……三日くらい煮込んだカレー」

「今度持ってきますね。今日は我慢してください」

「…焼きそば…」

「わかりました。すぐ作ります」


頷く湊に、さっき押しつけられた袋をのぞき込んでみればちゃんと焼きそばの材料が入っていた

(…最初から決めてんのに聞くなよ…)


「やっぱりパスタ」

「…じゃあ買い物行きましょう。焼きそばって言うかなーって思ってたんでそっちだと材料ないです」

「嫌だね。一人で行きなよ」

「嫌です。その間に出かける気でしょう」

「そんなことないよ、待ってるよ」

「ああ、居留守を決め込むんですね。待ちくたびれて寝ちゃったよ、とかって」

「………」

「どうしてもパスタだって言うなら一緒に買いに行きましょう。嫌なら今日は焼きそばにしてください」

「はぁ…わかったよ焼きそばでいいよ…」

「じゃあ少し待っててくださいね」


所に立つ湊の背中をもう一度睨んで、足立はベッドの上に背を投げ出した


(いつもいつもこうだよ…。なんで僕なんかにかまいに来るわけ?そりゃ湊くんのご飯は美味しいけどさぁ)

油に水がはねる音を聞きながら天井をぼんやり眺める
そんなに広くもない田舎ではあるが、足立と湊の遭遇率は異様に高い
半ばストーカーじみているような気もするが、会わない日もあるので別に付け回されているわけではない…と、思いたい


「透さん」

「…っ、なに」


ぼんやりしていたところを覗き込まれ、一瞬身構える
そんな反応に苦笑いを浮かべて湊は手にしていた3本のソースを足立に示した


「味。どれがいいですか?辛いのと、塩と普通のありますよ」

「……どれでもいいよ」

「透さん辛いの大丈夫でしたっけ?」


正直なところ、そんなに好きではない
だがそう言えば子供味覚でしたねとか馬鹿にされる気がしないでもない
別に湊はそんなことはしないし、むしろかわいいなぁくらいにしか思わないので完全に足立の思い込みなのだが


「大丈夫だよ」

「じゃあ今日は坦々焼きそばにしますね」


ソースを抱えて台所に戻る湊の背中を見送って、足立は枕に顔を押しつけた







「………っ」

「…はい、お水」


手渡されたコップを奪い取って一気に飲み干す
辛い
馬鹿みたいに辛い
こんなん食べたら頭が絶対馬鹿になる
それくらい辛い
足立は涙目で湊を何度目かわからないが睨み付けた


「辛すぎ」

「そうですか?分量通りなんですけど」

「なんかアレンジとかしたんじゃないの君のことだから」

「神に誓って分量通り、ノーアレンジです」

「だったらレシピ作ったやつの舌がおかしいんだよ…」


湊にコップを突き返すと、すぐにミネラルウォーターを注ぎ足してくれる
それを受け取ってもう一度一気に飲み干すと足立は大きくため息を吐いた


「おいしくない」

「そんなに辛いですか?」


ひょいと足立の皿から一口味見をする湊
涼しい顔でもぐもぐと咀嚼している


「君の舌もおかしいんだよ」

「そんなに辛くないですよ」

「…辛いよ」

「そんなに?」

「…せっかく作ってくれたけど、おいしくない」


湊の料理はいつも美味しいが、これだけは頂けない
こんなことなら最初から意地を張らずに辛いの以外と言っておけばよかった


「んー、と」


しばらく考えていた湊が不意に立ち上がる
どこへ行くのかと思えばすぐにじゅうじゅうと何か火にかけているような音が聞こえてきた


「なにしてんの」

「ちょっとだけ待っててください」


冷めるよ、と言おうかと思ったがやめておく
そこまで気を遣ってやる必要もないはずだ

むしろ冷めたら少しは辛味もひくだろうか
そんなことを考えながらぐりぐりと行儀悪く皿の上の焼きそばをかき回す
箸先を少しだけ舐めて、やっぱり辛いと湊の分の水まで飲み干した


「お待たせしました」


言いながらフライパンを手に戻ってくる湊
何をしていたのか聞く前に、足立の皿の上にフライパンの中身が乗せられる


「…なに、これ」

「ちょっとアレンジです。ふわふわ卵」

「卵?」

「一緒に食べてください」

「いいよ。いらない」

「だまされたと思って一口だけ」

「…嫌だ」

「食べさせてほしいですか?」

「いらない、って言ってんの」

「食べてくれないなら食べさせますけど」

「…なに、その脅し」

「だまされたと思って」

「わかったよ…」


渋々言われたとおりに乗せられた卵と一緒に焼きそばを口に運ぶ


「…どうですか?」


反応を窺うように湊がテーブルの上に乗り出してきた
いつ辛いと言い出されてもいいように手にはミネラルウォーターのボトルを握りしめている


「……食べられる」

「本当ですか!」

「嘘言ってどうするのさ」


辛いのは辛いのだが、さっきまでのように食べられないほど辛くはない
無言で焼きそばを口に運んでいると、その様子を微笑みながら見守っている湊と不意に目があった


「…なに」

「また作りにきますね」


駄目だと言っても作りにくるくせに今更なにを言い出すのだ


「…楽しみになんか、絶対しないからね。美味しいけど」


目を逸らしてもう一度焼きそばに向き直ると足立は小声でそう呟いた


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アダッチーが好きすぎる
辛いもの嫌いとか、捏造です(笑)

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