[携帯モード] [URL送信]

TOV
ハッピーバレンタイン


「はい、どうぞユーリ」

「お、サンキュー」


かわいらしいピンクの包装紙に包まれた、この季節よく見かけるお菓子
それを受け取るユーリの両手には同様の包みがいくつも抱えられている


「うちはチョコケーキを作ったのじゃ!」

「そいつはありがたいな。あとで食わせてもらうわ」


あきらかに同行している女性陣の人数以上のチョコの数
街行く女性たちからももらっているのは間違いないだろう


「……おっさん甘いもの嫌いだし、別に悔しくないんだけど、なーんかもやもやするわー」

「あら、おじさまだってもらっているじゃない」


ジュディスに示されて片手に下げた袋を見やるレイヴン
その中にはチョコよりも酒やおつまみ系の珍味が詰まっている


「や、嬉しいわよ? 嬉しいけどやっぱり今日はチョコの日でしょ」

「……ロアが、用意してるのではなくて?」


くるりと後ろを通り過ぎようとしたロアをジュディスが振り返れば、びくりと身を堅くした


『な、なにが』

「チョコ。あなたならおじさまに用意していそうだなって」

『………ない』


しょんぼりしたように肩を落とすロア
それを見て不思議そうにジュディスは首を傾げた


『……焦げた…』


聞けば、どうせなのでチョコをあげてみようと思いはしたらしい
だが、作る課程で失敗に次ぐ失敗を重ね材料が尽きてしまったようだ


『ごめん、レイヴン』

「いや、俺様別におにーさんからチョコ欲しいなんて言ってないし。つか女の子からがいいわよ」

「困ったわね。ロアがおじさまにチョコをあげると思ってたから、私たちはチョコ以外を用意してしまったわ」

「うそ!? え、おっさんジュディスちゃんたちにはチョコもらえないの!」

「だってロアからもらえば充分でしょう?」

「いやいやなんでおにーさん!? 俺、ジュディスちゃんのチョコ欲しいわよ!」


オーバーアクションで騒ぐレイヴンから離れ、やはり幾分か気落ちした様子でロアは先を歩いていたフレンの横に並んだ


「どうしたんだいロア」

『……なんでもない』


フレンの手にもユーリ同様チョコの山が形成されている
量は違えどカロルにもいくつか


「えと…た、食べるかい?」

『いらない。フレンの、だから、フレンが食べたらいい』

「……そう」


会話終了
どうやら自分にチョコがないことに気落ちしているのではないらしい


「ロアはもらわなかったのかい?」

『……あまいの、好きじゃない』

「…そうか」


やはり会話終了
くれようとした女性はいるらしい
断ったのも確からしい


「ええと」

『…あ、これ…似てる、かも』

「……ロア。それはカレールーだよ」

『甘くない、し。これならレイヴンも食べられる』

「食べられないよ」

『甘くない…のに…?』


店先に出ていたカレールーを握り締めるロア
それを何とか諦めさせて、フレンは溜息をついた
市販のチョコを買うならまだしも、カレールーはいくらなんでもない


『じゃあこっち』

「シチュールーでも一緒だろう?」

『…ホワイトチョコっぽい…』

「ぽい、じゃなくて普通のを買えばいいじゃないか」


諦めきれない様子のロアをなだめつつフレンはもう一度溜息をつく
助けを求めるように振り返るが、レイヴンは相変わらずジュディスにチョコをねだって騒ぎ続けていた



-----------------------------------





「あ、そだ。おにーさん」

『?』


宿に着き、後はもう各々が自分の用事を済ませるなりとっとと眠るなり自由に時間を使えるようになった頃合
今日はもう寝てしまおうと寝台に潜り込もうとしていたロアをレイヴンが呼び止める


『なに、レイヴン』

「あー…えと、なんつーか」

『大事な用?』

「大事、大事って言うか…えーー」


煮え切らない態度のレイヴンにロアは首をかしげた
自分の寝台の上で胡坐をかいているレイヴンの下へ歩み寄ると、隣に腰を下ろす


『どした?』

「いや、その…まあ、うん」

『…チョコの代わりに、カレールー、買おうとしてたの、ばれた?』

「なにチョイスしようとしてんの!!?」

『フレンに、ダメって、言われた』

「そ、それはフレンちゃんに感謝だわね…」


それじゃないならなに?と、ロアが再度問いかけると、レイヴンは意を決したように懐から青色の袋を取り出し、ロアに押し付けた


『…?』

「あげる!」


袋の中を覗き込み、きょとんとした顔でレイヴンを見返す


『うさぎ』


中に入っていたのはかわいらしくデフォルメされたうさぎ型のチョコレート


『チョコ?』

「か、勘違いしないように!! たまたま店で見つけて、おにーさん動物好きだったわね〜って思ったから買っただけで、別に今日のために準備したわけでもないしほんっとたまたまだしそういうつもりじゃないし!!」


だんだんとノンストップになっていく喋りにロアは目を丸くする


『えと…また?』

「……なにが」

『んと、最後の方、よくわからなかった』

「どの辺りまで理解したの?」

『ええと、またが店で動物』


最後どころか序盤からついてきていなかった
レイヴンは溜息をついてもう一度繰り返す
今度はゆっくりと


「だから。別に今日だからあげるわけじゃなくて、たまたま店でおにーさんが好きそうな形だなって思ったから買ってみただけなのよってこと」


レイヴンの言葉を反芻しているのか、しばらく黙ったあとロアは素朴な疑問を口にする


『…明日くれればよかった、よね?』

「!! おにーさんに正論言われた!!?」

『俺をなんだと…』


それなら明日と取り上げられるかと思ったが、特にそういった素振りもない
不思議そうにレイヴンを見つめると、目が合った後すぐに逸らされた


「…のよ…」

『?』


ぶつぶつと呟くレイヴンの声が聞き取れずロアは俯いたその顔を覗き込む


「あ、明日じゃ溶けちゃうって思ったから今日あげただけよ! あと、察しろ馬鹿!」


覗き込んだ顔を力一杯殴られ寝台から大きな音を立てて転げ落ちる
音を聞きつけたフレンが部屋に飛び込んでくるのはもうすぐだろう
ロアは床に転がりながらレイヴンが渡してくれた青い袋をぎゅうと抱きしめた






『……うれしい』




///////////////////////////

一日間に合わなかったけど、ハッピーバレンタイン!です

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!