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TOV
クリスマスまで後少し




「…もうそんな季節ですか」


フレンの言葉に嬉しそうにカロルが頷いた


「うん!楽しみだよねクリスマス!」

「カロル先生は楽しみにしすぎだろ。トナカイコスまで着て」

「そう言うユーリだってサンタの格好じゃん」

「俺はエステルに着せられたんだよ…」


端から見ている分にはユーリも充分クリスマスを楽しみにして浮かれている


「……あれ。そう言えばロアは」


パーティーメンバーが皆思い思いにクリスマスの準備に勤しんでいる中、ふとロアの姿が見当たらないのにフレンは気付いた


「レイヴンさん。ロアは?」

「俺様、おにーさん係って訳じゃないのよ〜?」

「そんなつもりではないのですが」

「まぁ確かにどこか行ってるわねぇ。まーたふらふらと…」


二人で辺りを見回すが、ロアの姿は目に付くところには見当たらなかった
小さくため息を吐いて、レイヴンが少し声を張り上げる


「おにーさーん!?」


すると、頭上から小さな声で返事が返ってきた


『………なに』


見上げてみれば、常緑樹の枝の影から顔だけを出してこちらを見下ろしているロア


「なにしてんの」

『………ひみつ』

「降りておいでよ」

『やだ』

「降りてきなさい」

『……………やだ』


葉の中に頭を引っ込めてロアは完全に隠れてしまう
レイヴンは今度は大きくため息を吐いて、びしりと足下を指さした


「ロア、降りる」


しばらくの間をおいて、枝を鳴らしロアがすとんと降りてくる
読みにくい表情は心なしか不機嫌そうだ


「なにしてんの」

『……べつに』

「別にじゃないっしょ。暇なら嬢ちゃんたちと一緒にクリスマスの準備でもしてきたら」

『……むり』


ふいと目を逸らすロアの顔の前に詰め寄り、レイヴンはその鼻をぎゅっとつまんだ


「おにーさん?」

『…エステルたちとは…やだ』

「なによそれ」

『だって、………の…かっこ』


もそもそと呟く口元に耳を近付け、レイヴンは首をひねった
フレンもつられてロアの声に耳を傾ける


「どうしたんだい?」

『エステルも、ユーリ、も………の…格好…してる』

「サンタ?」

『! い、言ったらだめ!クリスマスの夜に来る!』

「来たら嬉しいもんでしょ」

『嬉しくない!こ、こなくていい!』

「僕はロアがサンタを信じてるのにびっくりなんですが…」


フレンの呟きはヒートアップしている二人の耳には全く届いていない


「なんでサンタが来るの嫌がんの?!」

『サンタ、は…悪い子、斬って殺すって…!』

「そんな血なまぐさいサンタいないわよ!」

『いい子にしてたら来ないって、言ってた』

「いい子のとこに来るんでしょ!」

『来たら、殺される』

「殺さない!」

『だまそうとしても、だめ』

「なんで俺様がおにーさんに嘘つくのよ」

『サンタは、きたら、だめ』


一向に折れようとしないロアに、レイヴンはしびれを切らしたかのように手を挙げる


「あーもー。嬢ちゃーん、青年ー!ちょっと来てくれるー?」

『!!!』


呼ばれてこちらを見たユーリとエステルに、びくりとロアが身を強ばらせる
フレンが声をかけるより早く、ロアがその後ろに回り込んだ


「どうしたんです?」
「なんだよおっさん」

「ちょっと質問。サンタと言えば?」

「正式には聖ニコラウス。一般的にはクリスマスの夜に子どもたちにプレゼントを配っていくおじいさん、というイメージが定着している、です」

「それがどうかしたか?」

「おにーさんが、サンタにはいい子じゃないと斬られるとか変な信じ方してんのよ」

『変じゃない。斬られる』

「そんなサンタ嫌だってば!」

「………でしたらレイヴンがロアに正しいサンタを教えてあげればいいのでは?」


小首を傾げてエステルが提案する
フレンの背中側でロアがびくっと身を震わせた


『い、いらない』

「正しいサンタったってねぇ…。おっさんはサンタの衣装ないもの」

「こういうものは気持ちです。衣装なんてどうでもいいんですよ」

『いらない…』


小さく呟く声はフレン以外には届いていないようだ
フレンが首だけ振り返って様子をうかがえば、本気で怯えているのか顔が青かった


「気持ち、ねぇ…」

『き、きたら、闘う』

「あの…ロアがさっきから徹底抗戦の構えを見せてるんですが…」


そろそろと挙手をしつつ、思案顔のレイヴンの気をひいてフレンが発言すると、ようやく気付いたかのようにレイヴンがずかずかとフレンの後ろに隠れるロアの元へ歩み寄った


「おにーさん。サンタが来たらどうする?」

『か…返り討ち…』

「………とりあえず、びびりながらも出してる殺気をしまえ」

『不意をつけば、たぶん、殺れる』

「殺気を、しまえ」

『戦わないと、斬られる…』

「サンタはいい子のとこにプレゼント持ってくんの!」

『そんな、夜中にこっそりやってくるの…闇討ち…』

「だから、サンタは攻撃してこないってば」

『油断させて…ぐさり』

「どんだけ狂気的なサンタよ!」





相変わらず全く交わらない二人の会話からそろそろと離れ、三人は揃ってため息を吐いた


「本当にレイヴンはサンタ役をやるんでしょうか…」

「クリスマスの朝におっさんがボロボロだったらやったってことだろ」

「起きたら辺りが血まみれなクリスマスなんて僕は嫌だよ」

「そりゃとんだプレゼントだな」

「笑い事じゃないよ!?」

「とりあえず、ロアに正しいサンタをわかってもらえるよう、私たちもなにかできるといいんですが…」

エステルがそう呟くが、あのロアの頑なさでは、それもなかなか骨が折れそうだった
三人はまた顔を見合わせると大きなため息をついた


「そうです! 私、クリスマスまでロアに正しいサンタのお話を聞かせます!」

「では、僕は小さい頃の思い出話でもしましょう。僕たちのところにもプレゼントを持ってきてくれたよ、って」

「なら、俺はこのコスチュームでたまに言うぜ。返り血が目立たなくていいなって」

「ユーリ!!!?」

「…ジョークだよジョーク」



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クリスマスが近いので、ふと思いついた小咄
おっさんは無事クリスマスの朝を無傷で迎えられるのかなぁ(他人事)



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あきゅろす。
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