[携帯モード] [URL送信]

TOV
たまにはそんな日もある


金属が堅い毛皮に弾かれる高い金属音
それに重なるように響く詠唱の声
それぞれがそれぞれに目の前の大型の魔物―ギガントモンスターに攻撃を加えている


久しぶりに訪れたケーブ・モック大森林
面倒は避けようと、満場一致でギガントモンスターと接敵しない方針で探索をしていたのだが


『……ごめん』


ぼんやりしていたロアがグリーンメニスの背中に見事に突っ込んでいき、今に至る


「わざとじゃないんですから、気にしなくていいんですよ」


エステルが詠唱の合間に微笑みながらロアに声をかける

「そうそう。ぶつかっちまったもんは仕方ねえって」

『気をつけてた、のに』

「今は反省よりさっさと倒しちゃう方が先でしょ?」

『………ん』


戦いの合間に軽くレイヴンに小突かれ、こくりとロアはうなずいた

大振りな攻撃をかわし、隙の出来たわき腹に短剣を滑らせる
与えたのはわずかなダメージだが、目的は大きな傷ではなく敵意を自分に向けること
その目的は充分果たせたようで、グリーンメニスはロアに向かって咆哮を上げた

ロアに攻撃が集中している隙に、エステルとレイヴンが上級魔術の詠唱を開始する
時折そちらに向かう攻撃はユーリがうまく捌いていた


「無理すんなよロア」

『だいじょぶ』


動き自体はさほど素早くもない巨体の魔物
振り下ろされる腕を避け、小さくしかし確実にダメージを積み重ねていく

エステルとレイヴンが魔術を発動し、魔物の巨躯が暴風と閃光に包まれるのとほぼ同時に、ロアの身体が魔物の腕にはね飛ばされた


「ッ! ロア!?」


レイヴンが飛ばされたロアの元に駆け寄り、ユーリが体勢を大きく崩した魔物に止めをさす
エステルも一足遅れてロアの元に駆け寄った


『…ん…』

「ロア?」


小さく身じろぎをしてロアが身体を起こす
ダメージが大きいのかその動きはとても緩慢だ


「大丈夫です?」

「嬢ちゃん、とりあえず回復したげて」

「はい」

『……にゃー…』


ぴたりとエステルの詠唱と、レイヴンの動きが止まる


「……おにーさん?」

『ん?』

「いま、にゃーって、言った?」

『言ってない』


平然と返すロアに、レイヴンはふうと安堵の息を吐く
ロアは何を言ってるのかわからない様子でゆっくりと首を傾げた


「おっさんの聞き間違い、よね。そーよね。いくらなんでも…にゃーは…ないわよね…」

「あ、あの…」

「どしたの嬢ちゃん」

「私も、ロアが…にゃーって…言ったように…」


二人で顔を見合わせると、ぼんやりと話を聴いていない様子のロアを再度凝視する


「……おにーさん…?」

『……んにゃ?』


首を傾げるロアに、すかさずエステルとレイヴンが距離をとる
支えを失って、ロアがまた「うにゃ」とか言いつつ崩れ落ちたが、かまってはいられなかった


「おにーさんが、壊れた」

「頭を強く打ったんでしょうか…」

「はっきり言ってキモチワルイ」

「そんなはっきり言ってはダメですレイヴン」

「いや、嬢ちゃんもそれ結構キツい」


ひそひそ声で交し合い、起き上がらないロアに二人でゆっくり視線を向ける
打ち所が悪かったのだろうか
そう思いつつ、もう一度今度はしっかり心の準備をしてレイヴンがロアの名を呼ぼうと口を開きかけるのが早いか、ユーリが突っ伏しているロアの襟首をつかんで持ち上げた


「…おい、ロア、すげー熱いんだけど」

「えぇ!?」


首が絞まっているのか、ロアの口からはにょえーーーなのかうにょーーなのかわからないうめき声が漏れている
レイヴンはそんなロアの元へ駆け寄ると、額に手を当てた


「うわ、すごい熱」

「どうりでぼーっとしてるわけだな」

「でしたら、早く戻りましょう」


エステルの提案に賛同しようとして、ユーリがふと黙る
その様子にエステルは首を傾げた


「どうしたんです? ユーリ」

「…おっさん、おぶっていけよな」

「えー!? なんでおっさんが! 青年のほうが体力あんでしょ?」

「俺の背中でロアがにゃーとか言い出したら、絶対投げ捨てるぞ」


ずいっとロアの痩躯をレイヴンのほうへ押し出してユーリが真顔になる
しかしレイヴンとエステルのほうが先に鳴いたロアを落として逃げたのだが


「おっさんだって、やーよぅ…」

「出口まででいーから。その後はフレンにでも頼めばいいだろ」

「だったら青年がひとっ走りフレンちゃん呼んできたらいいじゃない」

「…おっさん」

「なによう」


ロアの襟首を持ったまま、ユーリが更に神妙な顔をする
不貞腐れたようにレイヴンが唇を尖らせて返すと、ユーリはロアを指差した


「さっきから、なんかロアがぴくぴくし始めた」

「ッッ!! し、絞まってる! 絞まってるわよせーねん!!!!」


奪うようにロアの身体をユーリの手から引っぺがし、地面に横たえるとその頬を軽く叩く


「おにーさん、大丈夫? おーい」

『…う…へーき…』

「歩ける?」

『……ん…』


軽く咳き込みながらも身体を起こすロアに小さく安堵の息を吐いた


『地面がふわふわ、してる…』

「熱があるからでしょ」

『ねつ? …熱があると地面、やわらかくなる…?』


頓狂な答えを返すロア
レイヴンはため息をついて、ゆらゆらしているロアの腕を自分の肩に回した


『レイヴン?』

「体調悪いの無理して付き合わなくていーのよ」

『隊長、悪い?』

「その隊長じゃなくて」


熱のせいかいつもよりも頓狂なことを言い出すロアに苦笑しながらレイヴンは返す


「だるかったんでしょ?」

『だるい、ってなに?』

「何って、こんな熱が出てるんだものだるいっしょ」

『…よく、わからない。腹減ってるから、とか?』


きょとんとしている表情にレイヴンはもう一度深くため息をついた
これだけ熱が出てるのにわからないもなにもあるものか

「とにかく、戻ったらちゃんと寝てちゃんと治すのよ」

『ん』





その後大森林を抜けるまでに足を踏み外したロアが木の下に落ちること2回、不意ににゃーと鳴かれて驚いたレイヴンが木に躓き諸共にひっくり返ること5回
回復したロアが後からぶつぶつとレイヴンに文句を言われたのは勿論言うまでもない


//////////////////////////////////

長くなったので微妙な強制終了
つか、らぶがない……



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!