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闘士の街


途切れることなく続く喧騒
夜の闇に包まれても治まる気配を見せない賑やかさに、ロアはゆっくりと身を起こした

周りを見ればユーリとエステルの寝床が空になっている
外でも見に行ったのだろうかと自らも寝台を抜け出そうとして、隣で寝ていたカロルが布団を跳ね除けているのが目に入った


『…ふ』


小さく微笑んでその布団を整えてやる
ぽんぽんと軽く肩を叩いて幼子をあやすようにすれば、くすぐったそうにカロルは身をよじった


『さて、と』


軽く肩を回しながら宿の従業員に外出を告げると、こんな時間の外出だというのに快く送り出してくれる
お気をつけて。そんな言葉にくすぐったくなった





満月を少し過ぎた、それでも十分に明るい月
見上げれば煌煌と輝く月が闇にぽっかりと穴を開けていた


『……うざ…』


少しでも月から隠れるように建物の影を選んで移動する
途中フィエルティア号の桟橋に目をやれば、エステルの白い衣装が目に入った
そしてその隣に立つ闇に溶け込むユーリの姿も


(邪魔したら、悪いな…)


最初は海の側へ行こうと思っていたが、予定を変更して街の入り口付近へ向かう
さすがにこんな遅くでは露天や屋台も軒並み店じまいをしていて、光照魔導器が道を照らしているとはいえかなり薄暗い

このあたりでゆっくりはできそうにないなと、街の外へ視線をめぐらせる

そんなに遠くへ行くのでなければ少しくらい街を出ても問題はないかもしれない


「どこ行くの?」


暗がりから声をかけられ、身構える
短剣に手をかけながら振り返れば、月明かりの元へ飄々とした顔で現れるレイヴンの姿


『……あんたか』

「街の外までお散歩は、ちーと危ないんじゃない?」

『うるさい』


レイヴンに背を向けて街の外の様子を窺う
門の外ぐらいならば明るい月を避けるのにちょうどいい暗がりもあるだろうし、魔物に襲われたとしてもすぐに戻ってこられるだろう


「ちょっと、人の忠告は聞くもんよー?」

『はいはい。ありがたーい忠告は聞かせてもらった。が、無視することに決めた』

「意味ないじゃない!!」


呆れたようにため息をつくレイヴンを無視してロアはするりと街の外へ抜け出した
入り口のすぐ脇に腰を下ろし、大きく息を吐く
夜でも静まらない喧騒
こうして少しでも離れれば意識の外へ追いやることができる


『…当然のように隣に座るんだな…』

「まあまあ。どうせだし親睦を深めちゃいましょ」

『断る』

「おにーさんは、ほんっとおっさんのこと嫌いよね…」


がっくり肩を落とすレイヴン
それを視界に入れないよう目を閉じてロアは膝を抱えた
ぎゅうと力を入れて顔を腕に押し付ける
瞼の裏にちらちらと浮かぶ赤い色やルツの貌
それを打ち消すように殊更強く押し付ける


「…おにーさん?」

『うるさ…』


レイヴンが珍しく気遣わしげな声音でロアを呼んだ
顔を上げて睨みつけようとして、思いのほか近くにその顔があったのに息を呑む


『…近い』


ぐいと押し返して睨みつけた
それを意に介した様子もなく、レイヴンは座りなおして首をかしげる


「前から思ってたけど、おにーさんはなんでも抱え込みすぎよ。もう少し人を頼ること覚えたほうがいいんでない?」


ぐりぐりと頭を撫でられロアは眉をひそめる
その手を払いのけるとレイヴンは困ったように笑った


「青年とかに話してみるとか…。おっさんでもいいし」

『ユーリはともかく、紫のを頼るなんてありえないな。無理。絶対ない』

「言い切られた!?」

『……つか…なんで嫌われてるってわかってて、俺にかまうんだ』


ため息をつきながら、また近くににじり寄って来ているレイヴンを再度睨みつける
そうするとレイヴンは人の良さそうな笑みを浮かべた


「おにーさんがあまりに危なっかしくてほっとけないのよ」

『頼んでない、必要ない、気持ち悪い』

「今おっさんいいこと言ったつもりなのに!」


放っておけない。心配だ。そんな言葉を口にして自分に近づいてくる人間で、言葉通りにそれを信用できる奴なんて一人たりともいなかった
利用したり、虐げようとしたり、あまつは殺されそうになったことだってある


『そうやって近づく人間にろくなの…いない』

「……よっぽどひどい目に遭ってきたってこと…?」

『あんたには関係ない』


目を逸らしてまた膝を抱え込めば、背中に自分のとは違う体温が重なる


『……なに』

「んー。なんとなく、こうしなきゃって気がしてねぇ」

『………』

「一応はおにーさんよりたくさん生きてるわけだし。…ま、たまにはいいっしょ」

『………鬱陶しい』

「はいはい減らず口減らず口」

『死ねばいいのに』

「それはないでしょ!?」


ショックを受けながらも温かい熱が離れていくことはない
こんな風に他人の温もりを近くに感じたのはいつ以来だったろう
もう顔も思い出せない父母がいた頃
手を伸ばせば抱き締め返してくれた腕があったあの頃


恐怖とも悲しみとも違う涙があふれそうになって、ロアは反射的に頭を勢いよく後方へ仰け反らせた


「ぁ痛ッ!?」

『………近いっつの』

「だからって頭突きする普通!!?」

『うるさい』


ロアは痛みに悶えるレイヴンを振り払うように立ち上がると、さっさと歩みを街の中へ向けた



ぬくもりなんて要らない
知らない
嬉しいなんて、絶対に思ってない




滲む視界を力任せに拭うと、ロアは傍にあった光照魔導器の台座を力任せに蹴り付けた



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いまはまだおっさんのほうが積極的に絡みにきてるのです



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