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兵士の心身二元論(SC)






目の前に居る貴方はホンモノなんですか




兵士の心身二元論




「クラウド」


なんですか、と口にしようとした唇は言葉を紡げず、優しく塞がれた。


触れるだけの愛情表現。


直ぐに離れていく体温は、シンプル故の行動の為か嫌でも相手の自分に向ける愛情を感じられた。



「顔、赤い」


至近距離で嬉しそうに言われた言葉に益々顔が火照ってしまう。


そんな俺の様子に仕掛け人はよっぽど御満悦らしく、くすくすとこれまた嬉しそうに目を細めた。



「不意打ちは、反則です」

対応出来ません
そう言った、のに



彼のその端正な唇が歪んで


焦点の合わない程の距離に、銀


数秒後にちゅ、というノイズが続いて



「そう拗ねるな」

余計にどうにかしたくなる


そう言って舌なめずり



二度目の不意打ち



ものの数秒の犯行に固まっていると、お前は隙だらけなんだとしれっと反省皆無の御言葉。


そうは言うけれど、貴方に隙を見せない人間がいるのだったら是非ともお会いしたいものです。


なんて、言葉にはしないけれど


「くくっ…」


俺の腹の内なんてこの人にはお見通しみたいで、彼の特有の笑いが堪えきれずに零れきた。それはもう肩まで震わして。



「な…!…酷いです」


「すまない、悪かった」



思わず抗議の声を上げた俺に彼はそうは言ったものの、俺の慌てた反応が余程気に入ったらしく、更に肩に掛かる銀が揺れた。

幾ら何でも笑いすぎだ、と、むっとはするけれど、彼の普段は決して他人には見せることのない、あまりにも無邪気な笑顔に、自分の頬が熱くなる。



「ごめん」



悪かった

そうもう一度謝った彼は三度、俺の唇を塞いだ。

今までとは違い、角度を変えて何度も何度も下唇を優しく啄まれる。
唇さえも愛でられているような感覚。余りにも優しい口付けに、耐えきれずに声が零れた。



「ん…セ…フィ」



名前を呼んだ刹那。
彼の瞼が持ち上がって、それまで長い睫毛に隠されていた翠が細められた。

魔胱の瞳。
大好きな色に吸い込まれそうになって見つめていると、彼は笑みを深くして俺の口内に舌を差し入れた。



「ふ…ぁ」



自分の口内を熱いものが蠢いて、それは俺の舌を見付けて絡め捕った。微かな水音が聞こえて口の端から唾液が顎を蔦って首筋まで伝った。



「可愛らしいモノは虐めたくなる」



唇を解放して、彼はそれはそれは綺麗に微笑んだ。


狡いよなぁ。
言葉には至極納得しかねるけれど、その極上の笑み。大好きな翠に思わず見とれてしまう。



それにしても不思議な色だ。


魔胱色とは云っても角度や光の微細な変化で翠にも碧にも視える。同じソルジャーと呼ばれる人達の瞳の色も魔胱色と呼ばれるけれど、彼らの瞳はどちらかと言えば青空の様な色味で、彼の様な純度の高い翡翠色では無い。



ふと思った。
彼のその白銀の髪も、純粋な翡翠の瞳も、本当は違うのではないか。


この綺麗な色は自分にしか見えていないのではないか、と。



小さい頃に読んだ本にあった。
動物と云うものは光の屈折率によって認識する色が変わるのだと。
そして各々動物によって色彩の識別や認識と云ったものは千差万別なのだと。


たとえば猫や犬と云った動物にはカラーの概念は無く、全てのものはモノクロに見えるらしい。

色だけじゃない、虫の眼には世界がカレイドスコープの様に見えるらしい。




だったら、彼の、俺が大好きな翡翠は本当は何色なのだろう。



本当の世界では何色なのだろうか。



翡翠では無く蒼なのだろうか


それとも紅や金


もしかして髪も黒なのかもしれない


俺の眼には彼の色は翡翠と白銀に視える


それなら他の人の眼には彼は何色に見えるのだろう


俺の知らない、俺が見たことのない彼が映っているのだろうか





「クラウド?」





はっとして彼を見上げると訝しげに眉を寄せていた。



「どうした?」



彼の声音は優しかった。
俺の答えを促すように長い指が優しく髪を梳いてくれる。




「セフィロスは本当のセフィロスなのか不安になったんです」




彼の所作に安心してぽつりぽつりと先程の不安を言葉にする。


彼は俺の言葉に最初は眉を寄せていたがそのうち感心した様な、又は呆れた様な、けれど嬉しいと云った様な何とも形容し難い複雑な表情になった。





「“心身二元論”と云う言葉を聞いたことが有るか」





彼の口から発せられた聞いた事の無い単語に俺は首を振った。



「『自分が視ている青色と他人が視ている青色は同一のもので有るか否か』その様に思案する事を“心身二元論”と云う」



正に今のお前の事だ、と。


成る程、今の俺に置き換えると
『自分が視ているセフィロスと他人が視ているセフィロスが同一か否か』と考えた訳か。

多少合点が付いたと思案していると長い指が顎に掛かって顔を上げさせられ彼と見つめさせられた。



「お前の考えも分からないでも無いが、これだけは言っておく。
他人の眼に俺がどう映ろうとお前が見ている俺が真実だ」


それにな


「俺が視ているお前と他人が視ているお前が違うのなら、俺は俺の知らないお前を知っている奴らを酷く羨むがな」




お前の全てが知りたいから




そう言って、また焦点の合わない距離に銀があったかと思うと
唇が塞がれた


















(心身二元論=考えたり疑ったりする自分)

20090816脱稿
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ずっと温めておいたネタです。
心身二元論。
親とそんな話をした翌日に授業の解説でも同じ話題が出て来て、これをネタに書いてみたい!と思ってました。
しかし予定と違うシチュエーションで組み合わせてしまったので本題に行くまでがだらっだらしてしまいました(苦笑)
何回キスすんだよ!みたいな(笑)
私に勇気があればベッドシーンでも良かったんじゃないですかね(笑)
セフィロスはなんか色々教養のあるイメージがあります。常識は無いけど教養はある、みたいな(笑)

因みに魔胱の“胱”は間違っています。ほんとは日ヘンなんですがケータイで出て来ないので一時凌ぎで月ヘン。また後日直します。

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