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Le dispiace?
light trap(骸+10)





伸ばしたこの手をとって頂くことは不可能ですか、嗚呼、貴方はどこまでもその華奢な両脚で立とうとする。

そう言って苦笑する部下に罪悪感こそ覚えはしたが、自分にはどうすることもできないのだと視線をわざと逸らした。

自分以外を信じるな、自分以外は皆敵だと思いなさい、そう幼少の頃から言われ続けてきた私には味方と呼べる者など1人だっていなかった。

現に今も"部下"と呼べる者は存在し信頼こそしてはいるが未だに信用の域までは達せないでいる。

結局はあの教え通りに自分以外の何者も受け入れられていないという愚かな結果なのだ。





「麗さん?」





ぴちゃりと何かが跳ねる音。背後にある気配に反射的に振り向けば、否応なく伸ばされた両腕に拘束され身動きを封じられた。

色違いの瞳にこんな至近距離で見つめられるのは初めてなのだが不思議と居心地の悪さは感じられない。

むしろ周りが血の海などではなければ周りから見ればロマンチックな光景だろうが。自分からしてみれば血の海の中で男女が抱き合うなど地獄絵でしかない、と埒もなく思ってしまうのだ。





「…左足が痛いのですが、」

「それはすみません」





振り向きざまに抱きしめられたせいかタイミングが悪かったのか無理な体勢になってしまい先ほど負傷した左足がやけに痛んだ。

しかし私の要求はさらりと流されたのでしばらくは我慢しなければならないらしい。少しは上司を労ってほしいのだが。果たして彼の真意は、






「何の嫌がらせですかこれは」

「…そう来ましたか」





私の反応で楽しむのは早急にやめてほしい。足の痛みが限界が近いことを告げている。膝があからさまに震えだした。何が何でも血だまりの中に座り込むことだけは避けたい。





「背負うのと担ぐのと横抱きするのと、どれがお好みですか?」

「…何、ですか?」





一瞬言われた意味が分からずに気を抜いた途端に何かが切れる音がして、ずるりと左足から力が抜けた。

嗚呼、結局は最悪の結果なのだとスーツを赤黒い血に染める覚悟を決めたその瞬間に。重力では無く浮力が働いたのはきっと私の気のせいだと。そう思いたかった。





「やはり軽いですね、アナタは」





上から降ってきた声に面食らい思いきり暴れてやろうかと一瞬思ったのだが、そうするとこの高さから床に落ちるとなると衝撃が大きすぎるなと思い直し。素直に肩から力を抜いた。





「…謀りましたね、」

「何の事でしょう?」





そもそも彼は人と必要以上に馴れ合うことを嫌っていたではないか。それなのにこの状況は何だろう。





「私で遊ばないで頂きたいのですが、」

「おや。それはアナタの被害妄想でしょう」

「……は?」





押し殺したように笑う彼を訝しげにじっと見上げれば。それは反則でしょうとふいと視線を逸らされた。





「…何がしたいんです?アナタは、」





ゆったりと傷に障らない程度の速さで彼は歩く。振動など微塵も伝わらない。逆に温もりが心地よいくらいで、今にも眠ってしまいそうだ。





「アナタが好きだと言ったらどうします?」





前言撤回だ。眠気などとうにどこかへ逃げ出していったようだ。





「寝言は寝てから言って下さい」

「おやおや、素直に受け入れてはくれませんか?」





受け入れる。受け入れる。受け入れる。それは自分が最も苦手とする行動。最も理解しがたい行動の1つなのだが。





「…1時間下さい、考えてみます」

「ありがとうございます」





結果を楽しみにしてますよ、そう白々しく笑う彼にせめてもの反撃として全身の力を抜いてやった。




(色付いた世界はこれほどまでに美しく、)



あきゅろす。
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