落忍SS
これ以上好きにさせないで(食←伊)
私は入学してからずっと、留三郎のことが好きだ。
一見怒っているようにも見える、ややつりあがった涼しげな目元は、笑うととても優しく細まる。
そんな表情に毎回きゅんと胸が締め付けられた。
下級生に優しく笑いかけて、ポンポンと頭を撫でるその大きな手が欲しい。
私も撫でてくれないだろうか。
そう、いつも思った。
なんて甘ったれた戯言を言っているんだ私は。
好きだと言っても相手は男じゃないか、馬鹿じゃないのか自分は。
そう考えても気持ちには逆らえなくて。
好きなんだもん、仕方がないじゃないか。
でも、普通の人には男が男を好きなんて気持ち悪いだけだから、この気持ちは私だけの秘密だ。
好きだ、好きだよ、留さん。
いつかこの気持ちも落ち着くのかな。
早く、落ち着かないだろうか。
夜はいつも一緒だから、気持ちが溢れそうになる。
一緒の部屋にいるときはドキドキがとまらなくて、気持ちが落ち着くどころか益々気持ちが高まって。
だからいつもその気持ちから逃げるように医務室に行くんだ。
言い訳はなんとでもなる。
保健委員長だし。
「今日もいくのか?毎晩遅くまで、大変だな。」
部屋を出る準備をしていると、留三郎がひょいと顔を覗いてきた。
「ひゃわっ!?わ、留さんびっくりさせないでよ。」
あまりに近くてドキドキする。
久しぶりに間近でみた留三郎は更に格好よくみえた。
「なんだ伊作、そんなに驚くことないだろう。顔、赤い…具合悪くて医務室行くのか?」
心配そうに額に手を当てた。
ひんやり冷たくて、大きな手。
心地好くて目を閉じる。
「わかんねーな。俺手が冷たいな。」
離れる掌に切なくて縋りそうになるのを抑えて、
「熱はないよ、」
と小さく呟いた。
「そうか?でも今日は医務室いくのやめとけ。風邪引いたら大変だぞ。な?」
留三郎はそう言うと、伊作の頭をポンポンと撫でた。
な?と言った時の優しく笑った留三郎を見た瞬間、涙腺が緩む。
ポンポンと撫でられ一気に涙が流れ出した。
「伊作どうした!?何かあったのか!?」
急に泣き出した伊作に留三郎は大いに慌てる。
何かあったじゃないよ。
何その優しい顔。
優しい掌。
これ以上好きにさせないで。
「うっ…、うぅっ…。」
何も言わずぐしぐしと泣き続ける伊作に困ったのか、留三郎はそっと抱きしめた。
「泣くな、伊作。話なら聞いてやる。どうしたんだ。」
優しく抱きしめられ、ポンポンと背中と頭を宥めるように優しく撫でられて、ふわふわした。
好きで好きでどうにかなりそうだった。
「す、き…うっ…留さん…の、こと好きなんだよぉ……」
留三郎を離すまいと背中に腕を回して、胸に顔を付けて想いを伝えた。
こんなことまでされて、黙ってるなんてできなかった。
「伊作…。」
明らかにうろたえている。
伊作はそっと離れ、
「気持ち悪くてごめん。でも伝えたくて。本当に、ごめん。」
泣き顔を見られたくなくて、俯いて立ち上がったら、ぐいっと腕を引かれてまた留三郎の胸に舞い戻った。
「留さん?」
戸惑い潤んだ瞳で見上げれば、間髪入れずに唇が塞がれて。
「こんなこと、お前俺とできるのか?」
掠れた声が聞こえた。
思わず固まったが、思考回路をフル稼働させて、試されているのなら応えなければと思い、
「…っ!で、できるよ。」
向き直って自分からも唇を重ねる。
「ほ、ほら!そ…それ以上だって…!」
決死の思いで言った。
留三郎は伊作をじっと見詰めた後、ふっと笑って
「ホンッと…可愛い奴、」
とだけ言って、伊作を抱きしめた。
「と、留さん…?」
何が何だかわからない伊作だったが、この温かい腕の中にもう少し居たくて黙ることにした。
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食伊好き
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