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egoist
いいふーふー



今日は11月22日。
世に言う"いい夫婦の日"
今年は2011年11月22日だから"良いいい夫婦の日"かもしれない。



「今日は独りもんの日だ。しかも今年は1が6つもあって最強なんだぜ。だから野分、相手しろ」

11月11日、そう言って騒いでいた先輩が今日はやけにおとなしい。
(この日はポッキーとプリッツの日だけじゃなく独身の日という意味もあるらしい。)




いい夫婦の日か…ヒロさんは恥ずかしがり屋だからそんなこと言ったら怒っちゃうかもしれないな。

「だ、大体どっちが妻だっつーんだよ、いい歳した男2人で!」

大丈夫です!
おれ、ヒロさんと夫婦になれるなら妻にでも嫁にでもなりますから!

でもきっとそんな言葉も照れ屋の彼にとっては怒りのスイッチになるだろう。
明日は祝日でヒロさんはゆっくりできるはずだし、せっかくの2人そろっての夜が台無しになってしまう。
それだけはなんとしても避けたい。



あ、いいフーフーの日って言ったらヒロさん、俺のご飯フーフーしてくれるかな…?

「ったく、お前は猫舌だからなー俺が冷ましてやるよ。ほら貸せ」

俺のお椀を受け取ったヒロさん。
両手でお椀を支えながらその綺麗な口元へと持っていく。
僅かに下げられた視線は、俺がこれから口にする食べ物の元へとおろされていて。
普段はキュッと結ばれている事の多いその唇が少しだけ開かれ"ふ"の形になる。
その唇から「ふーふー」と柔らかな吐息が吐きだされ俺のお椀に降りかかる。

俺がこれから食べるご飯にヒロさんの吐息がかかっているなんて、もったいなくて食べられない。
いや、もちろん食べるんだけど。

ヒロさんのフーフー唇の形…可愛いな…
息を吸うときに少し引っ込み、また少し突き出しては息を吹きかけてくれる。
そのまま俺の熱も冷ましてもらって… 




「おい、野分仕事中だ。今のお前、顔が犯罪だぞ」

気がつくと目の前には先輩の顔。

「なんだ、先輩ですか…」

「おっまえー、ひどい奴だなー。なんだ、いい夫婦の日ってので浮かれてるのか?え?」

「ヒロさん…フーフー唇…」

「…ダメだなこりゃ」

呆れたような声が聞こえたけど、ヒロさんに言われた訳じゃないからどうだっていい。




この頃すっかり冷えてきたので今日は今季初のお鍋を作った。
もちろん完璧な計画の遂行のため、鍋は熱々だ。ぬかりない俺。

読書中のヒロさんを呼んで2人揃って食卓につく。

「おー鍋か。もうそんな時期か、うまそー」

わくわく顔のヒロさんは子供みたいで非常に可愛らしい。
その子供みたいなヒロさんに更に子供っぽく甘えられるのは俺だけの特権。
ヒロさんの分と自分の分をお椀に取り分け、自分の分をヒロさんへと差し出す。

「ヒロさん、フーフーしてください」

「ハァ?」

案の定の返事が返ってくる。

「お鍋熱々で食べられないんです」

瞳をじっと見つめていると徐々に彼の顔が赤くなって目線がうろうろとし始める。
ヒロさん目の前のお椀から立ち上る湯気に目を止めるとついに我慢できなくなったのか右手を差し出してくれた。

「だーっ!貸せ!」

ヒロさんはひったくるように取ったお椀を両手で包むと顔をうつ向かせ、乱暴に息を吹きかけた。
フーフーというよりブーブーに近い強さのそれは俺の想像とは全く違った。
違ったけれど、一生懸命息を吐き出すためにぽっこり膨らむほっぺがなんとも言えない可愛さを醸し出していて…
真っ赤になって膨らんだほっぺは俺の妄想なんか一発で吹き飛ばした。

そのふくらみには俺への愛が詰まってるんですか?
それを吹きかけてくれるなんて…
あれかな、メイド喫茶の「おいしくなぁれ」みたいな効果なのかな?
いや、それとは比べ物にならない。なんたってこれは俺のためだけにしてくれてるフーフーなんだから。

「…こんなんでいいだろ!…野分?」

「やっぱりヒロさんのフーフーは世界一いいフーフーです!」

「なに訳分かんねえ事を…おい、のわ…!」

ごめんなさい。俺、今このご飯食べられそうにありません。

「このお鍋が冷めるまで俺と仲良くして下さい」

暴れるヒロさんをベッドに連れて行き押し倒す。
彼もここまで来たら諦めたのかおとなしく組み敷かれてくれている。

「…俺の分は温め直せ」

そう言って回された腕に申し訳なさを感じながらも俺の中には堪らない愛おしさが溢れていった。


いい夫婦の日、ものすごく満喫できそうだ。
明日は俺の無茶に付き合ってくれたヒロさんを労わる日にしよう。



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