「……なにやってんだ、俺」
俺は鏡に写し出された女子制服姿に気分が悪くなった。
短いスカートから伸びる筋肉質な足、どう見ても男にしか見えない顔にかかる茶髪のヅラ。
男子トイレの洗面所の前で、コロネロは盛大な溜め息を着いた。
そもそも、コロネロがこんな出来の悪い女装をしているのには訳がある。
実は今年の文化祭でやるクラスの出し物が、コレなのだ。だが、コロネロ達は高校三年生。文化祭が秋頃に予定されているが、劇に時間をかけてはいられない。よって、練習の手間が劇よりは省ける映画作成になったのだ。
また、「普通の劇じゃ、つまんねぇ」という某腐れ縁の意見により、だれよりも男らしいコロネロがヒロインの恋愛映画になってしまった。
「あ〜、スースーするぞコラ」
コロネロは猛反対した。暴れださんくらいにゴネた。だが結局、この役を引き受けてしまった。
「お、ヒロインの登場か」
教室に入るなり笑い出すリボーンの策に(というかエサに)はまってしまったからだ。
「……コロネロ、大丈夫?」
クラスメートの綱吉が心配そうに声をかけてきた。俺は今、そうとう顔色が悪いのだろう。
「……ああ、大丈夫だコラ」
「お前目当てに引き受けた役なんだから」とは、さすがに言えなかった。
そう、ヒロインが片思いをしている男子生徒役が、まさに現実でも絶賛片思い中な綱吉なのだ。その辺、脚本兼監督のリボーンは卑怯だと思う。(しかも、脚本も明らかにコロネロをモデルにしている)
話の内容は、かなり陳腐だ。簡単に言えば、コロ美が一目惚れして以来ずっと好きだった綱吉もコロ美が好きだった、そんなところだ。
だが、一途なヒロインはごつい男、対する片思いの相手は女みたいな華奢な男。シュールな配役で受けを狙うらしい。
「んじゃ、コロ美が来たから、ちょっと俺らは家に帰るぞ」
「はっ?!」
「俺達エキストラも制服必要なの忘れて、私服で来ちまった」
「やっちゃったよね☆」とやけに楽しそうに笑い合うリボーンを含む撮影係達に殺意が沸いた。
「じゃ、二人で練習してろよ」
「お、おい!!」
バタンっと俺の制止の声も聞かずにドアが閉まった。静まり返り教室で(俺の恰好はアレだが)ツナと二人きりになる。
「あ、あのさ」
「な、なんだコラ!!」
緊張の余り裏返りそうになった声で返事をし、ツナを振り返る。すると恥ずかしそうにこちらを見ながら笑うツナの姿が。
「………練習、しよっか」
いざ二人で練習しようとしたはいいが、問題が一つあった。いや、このことに関して俺が過剰になっているだけかもしれない。
「何て言うか、俺達のからむトコって、ラストしかないよね……」
うあ、やっぱりやるのか。出来れば消したいシーンなんだぞコラ!!
「え〜と、…『暇そうにしている綱吉に、意を決して声をかけるコロ美…』」
「ぅ、……つ、『綱吉君』!!」
あ、〜、もう最悪だコラ。しかも、本人の前で初めて名前呼んだのに、女装姿なんて。しかも劇の台詞って情けねぇぜコラ!!
「ア、あっ、あなたのこと、く、く、くらっクラスで見たら、見たとっ、コラぁ!!」
「あ、ちょっ、緊張感は伝わって来るんだけど、ちょっと」
そりゃそうだ。緊張してんだから。こんなの、演技でなんて出来ない。
「でもさ、なんかコロ美の気持ちが、よくわかんないんだ……。コロネロ君、もう少し考えてみて」
「考えるったって……」
そういった難しい事はよくわかんねぇぞコラ。コロ美は俺をモデルにしているが、俺はこいつみたいな行動力は、ない。
「コロネロ君、ってさ、好きな人……いないの?」
「っ……!!」
「あー何言ってんだろ」と顔を朱くさせるツナ。
俺はお前が好きだ。一年生の時、初めてクラスで見かけた時からずっと、ツナの事が好きだった。
もし、俺がコロ美だったら。いや、コロ美は俺なんだ。ずっとずっと綱吉が好きで、そして、俺は今告白しようとしている。
「クラスで」
「え……?」
ツナが少し驚いたように俺を見た。
「クラスでお前を見た時から……ずっと、…ずっと……好きだった!」
教室がシーンとなる。
ツナが大きな瞳を見開いて俺を見つめている。お互い、黙ったままだった。
だがツナの驚いた顔を見ていて気がついてしまった。さっき、俺、自分の言葉で告白してた。
い、いや、まだ間に合う。「間違えて男言葉使っちまったぜコラ」と笑えばいいんだ。
……いや、俺はいいのか、ソレで。
さっきのは紛れも無い俺の告白だったのに。
俺は、どうすればいいんだ。
「ありがとう」
「!!」
「まさか………そんな風に想われてたなんて……」
「……え?」
ツナが、少し俯いた。髪の隙間から見える頬は赤らんでいた。
「俺、も………」
心臓がやばいくらいに動いている。耳が焼けそうに熱くなる。
「俺も、ずっと……」
ツナの少し震えた声が俺の頭の中で響いた。
「す……」
ああ、俺の片思いがとうとう終わるのか。
「カット!!!」
「「!!?」」
「いやぁ迫真の演技だなぁお二人さん!!」
声のした入口を見ると帰ったはずの撮影係がゾロゾロと教室に入ってきた。どうやら今まで盗み撮りをしていたらしい。
「カメラを意識すると筋肉なんかはアガッて演技なんか出来ないと思ったからな」
さすが俺は完璧なプロファイリングだ。と自画自賛するリボーンを睨む。演技ってなんだコラ。こっちは真面目に告白してたんだぞ。
「だがな、コロネロ、お前台詞間違えたな。ツナもだ。『俺もずっと好きだった』じゃなくて、『実は俺も君の事、気になってたんだ』だぞ」
「え、あ、間違えた。なんかコロネロ君の迫力にのまれた、かも」
ツナぁ!!テメーさっきの演技だったのかよ!!
「えっと、コロネロ君、もう一回やろ……?」
ああ、さよなら、俺の一世一代の告白。
まあ、でもこんな恰好だったんだから、しょうがねぇか、コラ。
「よし、頑張ろうね!コロネロ君」
困った事に、ツナの柔らかい笑顔が俺を甘くさせるのだった。
俺がヒロイン
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「I'S」パロディー。
変な終わりかたすみません(泣)