例えば小さい頃から遊んでもらってたとか、家に何回も訪ねて来ていて会っていたとか。
亡くなった父さんにそっくりで懐かしくなるとか、祖父ちゃんの口癖を言ったりとか。
そういった家族を思わせてくれる仕草をしてくれないからだ。
−−−俺がこんな想いを抱いたのは。
「……リボーン」
「なんだ」
白い床が目立つ広いマンションの一室に俺とリボーンは一緒に住んでいる。
リボーンと俺は叔父と甥の関係だ。
快活だった父さんと優しかった母さんは、俺が小5の時に事故に遭って帰って来なくなった。
俺はその後、父さんの弟を名乗ったリボーンに引き取られ、現在は中学三年生になった。
「………進路の事なんだけど」
言いにくそうに切り出した俺に、リボーンは眉をひそめた。飲んでいたコーヒーをテーブルに置き、長い足を組み直した。
「で?」
ああ、そんな目で見ないで欲しい。
漆黒に光る瞳が、まるで俺を責めているように感じるから。
「………ここに行きたいんだ」
そういって差し出したのは、全寮制の公立高校の学校案内書。今の自宅からかなり離れているが、一応県内だ。学力は上の下と、俺が狙うにしては高めだが頑張りたいと思う。
それを見つめるリボーンの表情は険しい。彼の長く細い指がコツコツと神経質そうにテーブルを叩いていた。
張り詰めた静寂の中、その単調な音が俺の心に杭を打つかのように響く。
「………なんだ、これは」
やがて出たリボーンの声は不機嫌そのもので、彼が見た目以上に怒っているのが分かった。俺は拳を握りしめる。
「そこに行きたいんだよ。」
「だから何故だ」
家の近所にこの程度の学校なんて沢山あるだろ、とリボーンは舌打ちをした。
確かに、リボーンが俺を引き取ると同時に引っ越したこのマンションの付近は高校が密集している。なかにはここから歩いて五分の所にある高校だってある。
「……そこがいいんだ」
引き下がってはダメだと自分を叱咤して、リボーンを見つめ返した。いつの間にかリボーンの指はテーブルを叩くのを止めてギリっと爪を立てていた。
「………ツナ、俺はお前を大切に思ってるんだぞ。だから、今まではお前の考えを尊重してきた。でも、この件については−−」
「絶対に許さねぇ」と低く呟いて、リボーンは手に持っていた案内書をビリビリと破いた。小冊子に近いそれは固いはずなのに、いとも簡単に裂けていった。
「っ!!なにすんだよリボーン!!」
俺はリボーンを止めようと手を伸ばすが、俺が触れたのは無惨な姿になった紙屑だった。
悔しさで視界が揺らいでくる。結局、リボーンは俺が守るられるべき子供のままだと思っているのだ。
「リボーンは、勝手だよ……」
俯くツナにリボーンは触れようと手を伸ばしたが、それは逡巡のうちに戻された。
「……俺は、お前の保護者だ」
リボーンは勝手だ。
いつも保護者という言葉で俺を突き放す。その常套句に俺がどんなに悲しんでいるか気付かずに。
もう限界なんだ。
リボーンの傍にいるのは辛い。
不毛すぎる恋は、もう捨て去りたい。
こんな中途半端な温もり、俺には凶器以外の何にでもない。
一刻も早くリボーンから離れないと狂ってしまいそうなんだ。
溺