[携帯モード] [URL送信]
孤独の闇に囚われないように。


「…っ!………夢、か…」


夢を見た。
汗がじわりと滲んで髪の毛が肌に張り付いて、その不快さで目を覚ました。

お世辞にもいい夢とは言えない、そんな夢だ。気が付けば息も珍しく少しばかり乱れている。
たかが夢如きで息が乱れるとは、自分でも思ってもいなかった。





「…ちっ、目が冴えちまったな…」



自室の窓からは、大きな満月がこれ見よがしに夜空に浮かんでいるのが見えた。
上体を起こし、窓からその大きな月を仰ぎ見る。
暫しの間、ただ月を眺めていた。何をする訳でもない、ただぼんやりと。




「…外の空気でも吸ってくるか」


ぽつり、と。
別に誰が聞いている訳でもないのにそう漏らし、愛用の煙管を手に自室を後にした。




時刻は真夜中。
艦内の誰もが静かに就寝している時間だ。
甲板へと続く道をただ静かに進めば、静か過ぎる所為なのか先程見たあの夢の情景が頭の中にわずかに浮かんだ。
瞬間、頭を振り、その情景を掻き消す。もうぼやけて見えない筈のその情景が、酷く不快にさせる。





畜生、何で俺が、あんな夢如きに―――――



二、三度頭を振った頃、ざわりと外の空気が体に当たった。甲板からは、真夜中の暗い海と空が臨める。
肺に空気を送り込み、そして吐き出す。たったそれだけの行為で、先程の不快な気分は一旦リセットされる。

煙管を袂から取り出し、煙を燻らせる。
紫煙は真っ黒の夜空に浮かび、コントラストが映えていた。





時折、波の音が響いた。
一定感覚の様な、バラバラの様なその音が、静かに自分の意識を何処か遠くへ連れて行きそうに思えた。
何処までも続く、この空と海が、水平線で交わる。
それはどうしてか、先程の夢に捕らわれてしまいそうな感覚だ。









――――コツ、コツ、コツ。



静寂を破る足音。
それは思考が夜の闇に沈み込む直前だった。
後ろを振り返らずとも、其れが誰の足音か解らぬ自分ではない。




「お前も眠れねェのか?…万斉」


「“お前も”、という事は晋助…悪い夢でも見たでござるか?」




満月だけが唯一の明かりであるこの真夜中に紛れる様に、全身を黒で包む男―――河上万斉は質問に答える訳でもなく逆に問うてきた。



「餓鬼じゃあるめェし、そんなんじゃねェよ。…ただ、胸糞悪ィ夢だっただけだ」


「…それは正に“悪い夢”ではござらぬか?」


「………そうかもな」



くす、と万斉は微笑った。
いつの間にか隣にまで距離を縮め、俺と同じ様に月を仰ぎ見た。



「今夜は…満月が綺麗でござるな」


「別にいつ見ようが満月は満月だろ」


「…晋助と見る月はまた格別でござるよ」


「…恥ずかしい奴だな相変わらず…」


「拙者は嘘は申さぬ」





こいつは何時だってそうだ。
涼しい顔して、今みたいな台詞を吐きやがる。さも当たり前の様な顔で。
色の付いたガラスから浮かぶ瞳は、俺を真っ直ぐ射抜く。
それはまるで、先程波の音に持っていかれそうになった思考を許さぬ様な。
しかしそれでいて、愛でる様な。









「……どうしてだろうな、全く」


「何がでござるか」


「俺は、この世界をぶっ壊す。それは変わらねェ。変わらねェんだ。だが…」


「…?」


「……俺の大事なモンは…何時だって俺から消えちまう…先生も…ダチも…、みんな俺の前から消えた」


「晋助、」



ざわり、夜風が俺の髪を掻き乱す。
心臓の奥底に眠っていた感情を呼び起こす様に。



「壊すと言いながらこんな事思っちまうなんてなァ…本当に、胸糞悪ィ夢だ…」






そうだ。本当に胸糞悪い夢だ。
今更そんな事言われなくても、自分は振り返る事なんて忘れた筈なのに。

夢の中で見た先生の姿、銀時達の姿は、昔の記憶をちらつかせては俺の前から消えていった。
大事なもの全部捨てて、乗り越えて、ただこの腐り切った世界を壊すのが俺の目的の筈なのに。






――――――俺にもまだ、人並みの感情が残っていたって事か…――――












「晋助、それは拙者が主に誓った事を失念しているという事でござるか」


「…あ?」




「拙者は主に誓った、“主にこれから先、一生ついていく。拙者の一生は、全て主に捧げる”と。その誓いすら晋助、主には届いていないのか?」







声音が、先程までとは違っていた。
酷く傷付いたと言わんばかりの、そして少しばかりの怒気を孕んでいた。


その誓いは、そうだ。
こいつが鬼兵隊に入隊してきたその日の言葉だ。

そして…





「俺が、お前の言葉を忘れるわけあるめェよ。…二度も言われた台詞だ」

―――――俺がこいつに、捕まえられた時の言葉だ。






「なぁ晋助。もう一度、主に誓ってもよいでござるか?」


「…要らねぇっつってもどうせ言うだろうが」


「拙者、嘘は申さぬ」




覗かせた瞳が、微笑っていた。
柔らかな波の様な声で、もう一度、俺に誓いを立てた。









嗚呼きっと、
こいつだけは絶対に俺を置いていかない








何故ならば今度は俺も、
こいつからこの先一生離れたくはないからだ。


end.

↑↑↑↑↑↑

コメント

この様な素敵な企画に僣越ながら参加させて頂きました…!
映画観て思い切り銀魂再燃したら思い切り万高にハマってしまいました…そんな勢いだけで行動してしまいました。
拙い物ですが…とにかく万高万歳!万高最高!万高愛してる!晋助様を幸せに出来るのは万斉だけ!早く結婚しろ!←
…お粗末様でしたァァァア!!!!




あきゅろす。
無料HPエムペ!