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「ぅぉっ…!」

僕は猫を見ると驚いてしまう
そしてついつい後退る
まあこれは致し方ないというか
もうホッチキスの次に条件反射されるというか
習性のようになってしまった
だから、今日も同じような理由で
というか全く同じ理由で
黒猫が僕の目の前を通ろうとしたから
思わず逃げてしまった
ダッシュで。
通行人Aさんから驚愕の目を向けられた
猫アレルギーだと思ってくれ!



「っは、は、は、」

しかも白い猫の真逆で
黒い猫とは
縁起が悪い
この認識は間違ってないはず
三毛猫とかだったらここまで逃げないけど
なんというか
やっぱり黒!とか白!とかだと
なんつーか
恐い

僕は今制服ではない
お決まりとさえ言われた私服
片手には青少年たる物無くてはならないブツがある
今はその帰りなので、真夜中
真夜中に夜空を写し取ったような猫に会うとは
不吉というか、奇っ怪な話だ

「っは、は、は…」

短く呼吸を繰り返す
多く息を吸えば、速く動機が収まる―――かな
と、小学生の頃は考えていた
あの予想は当たってるのかな―――…

「なんで」

可笑しい怪しい妖しい
なんでだ?
なんか同じ所をぐるぐる回ってるような気がする
もしかして、また
あの猫―――…

「あの猫って…」
「わしがどうかしたか」
「ッ」

振り向く
ついてきていたのか?
まるでギロチンカッターのような登場の仕方
嘘だろ…

「どーして逃げるんっすかー?
アタシにはさっぱりっすよ」

振り返る
今では下駄の音が鳴っているのに
全然気づかなかった
なんで…
というか、さっきの、通行人A!

「え」
「うーむ…なんじゃろう
特に変わった様子はないのう」

ずい、と顔を近づけられる
こ、この人、背はちっちゃいのに、すげぇ…!
じゃないじゃないなんなんだ!?

「まあ一般人よりは霊圧あるっすけど…
そんな特異な感じはしませんねェ」
「う」

なんだ?この人
帽子を目深に被って―――ちゃらちゃらして
何考えてるかわかんねぇ―――まるで
そう、まるで
アイツみたいな
鬼に名を授けた、アイツみたいな―…

「おぬし
名は何という」

この人、忍に喋り方そっくりだ…
というかこの二人、忍野一家そんままだ!
すげえ、なんか、感動する…

「ぬし!名前をきいておるのじゃ!」

そうそう、こうやって怒る所とか
全然恐くないんだよな…
というか逆に可愛い
うん、そうだ、忍は可愛い!
明日はミスドに行ってやるか…

「そうしよう」
「頭が可笑しいのかこやつは?」
「まあまあ夜一サン
きっとピンクな世界に飛んじゃってるんスよ
ほら、エロ本だって持ってるし」
「ほうほう、ではこやつは、わしで妄想したということか?」
「そうなるッスねえ」
「会ったばかりで欲情されるとは、わしもなかなかじゃのう」
「いや、この人の頭が残念なんスよ」
「うむ、とりあえず連れて行くか」
「え、なんでッスか?」
「面白いではないか
わしを見て逃げよるし
わしを見て欲情しよるし
馬鹿な子ほど可愛いというヤツじゃ」
「同情ッスね」

がしり
急に腕を捕まれる
なんだ?
忍にしては手が大きいな―――ア!?





――――飛んだ
――――いや、跳んだんだろう
跳躍だったんでしょうけど!
軽く一屋根越えている
跳ぶスピードが速すぎて風圧に圧される
僕のなくてはならない掛け替えのない物が
バサバサと手放されていく

「ああ―――ッ!」
「な、なんじゃッ!?
悲鳴をあげるにはちと遅いのだがっ」
「違うッスよー夜一サァン
ほら、どんどん落ちていくアレッスよォ」
「わしの脚力はあんなブツに負けたというのか!?」
「というか、慣れてるって感じッスねえ…」

自分達の言葉で話を進めないでくれ…!
話の流れが掴めそうで掴めない
というか
というか
僕の二千六百八十円―――ッ!!!
ああ…どんどん遠のいていく
儚いなあ…まるで僕のようだ

というか
この偽忍野一家は
マジで、誰なんだ?








あきゅろす。
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