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040



「あ、暦さん」
「帝人」
「前、いいですか?」
「ああ」

オムライスもあと十分の一という所で
俺の知り合いの中でもまともなヤツ上位に位置する
一年、竜ヶ峰帝人と会う
折原が座っていた所に座る帝人
きちんと訊くのが礼儀正しくて、好感
なんっか落ち着くんだよなー…

「オムライスですか」
「ん、おう
結構好き。半熟な所とかな」
「僕、ゆで卵って苦手なんですよ」
「なんでだ?」
「黄身までかちかちだと喉が渇くじゃないですか
半熟ならいけるんですけど」
「あー、わかる」

僕もかさかさのがちがちは嫌だ
半熟作れる人は凄いと思う

「帝人は…っと」
「ああ、Aランチです
選べるほどお金無いんで」
「…………………」
「…?暦さん?」
「……………や、なんでもない」

拒否するべき物が端にあった
見てない見てない
大丈夫、意識しなければ

「帝人は、ほかに嫌いな食べ物とかはあるのか?」
「えー…とですね」

と言いながら帝人はご飯を手に取る
よし、セーフだ
このまま意識から外させれば…!

「トマトの種が入ってるところとか…」
「ああ、あのゼラチンみたいな」
「あそこも少し…苦手ですね、はぐ」

白米を頬張る
うん、大丈夫
僕ももうすぐ食べ終わるし
食べ終われば、帝人には悪いけどお暇しよう
よし、あとちょっとだ!

「暦さんは?」
「ぼ、くは…」

納豆です
なんて、目の前にあるのに言えるか!
しかも…ちらっと見たけど!
そう、見たんだけど!
結構な量があった!なんだよ!
なんだよ!帝人、納豆好きなのかよ!
言いにくいだろうが!

「そ、うだ、なあ…はぐっ」

食べ終わった
食べ終わったから
この質問に答えれば終わりっ…

―――と
納豆以外の食べ物を脳内辞書検索していた所で
帝人が
納豆の入った皿を
手に
取っ―――――――――






ストォォォオ―――――――――ップ!!


がしゃがしゃがしゃーん!
と、長机の上にあった帝人のAランチが無惨にも床に落ち散らばっていく
当然、納豆も
呆然とする僕と帝人
机の上にあったランチを蹴飛ばした人物―――それは

「矢霧…くん?」

一年、矢霧誠二
その隣に、一年、張間美香
どちらも、知らない人だ
帝人は震える声でそちらを見る

「竜ヶ峰、お前、知らないのか?」
「え?…なにを?」

いや、僕も知らない
何をだ?

「二年の阿良々木暦先輩には、納豆を見せてはいけないと」
「「…………………………
………………はい?」」

…いや
いやいやいやいやいや
知らないのか?
じゃねーだろ
…え?いや
そりゃあ
そりゃあ嬉しいですけれども
だけれども
………ええええ?
それをなぜ皆が知ってる設定に
なぜだ
わけがわからないんだけど

「や、…やぎり…くん?か?」
「はい、阿良々木暦先輩」
「それは―――…どういう」
「暦く―――――――――ん!!」

やってきたのは幸せ絶頂中の保険医、岸谷新羅先生
なんだかテンションが高い

「いやね、私は以前からずっと考えていたことがあるんだが」
「はあ…」
「いつか僕が君の役に立てたらと思っていたんだ!」
「どうも…」
「だから今日、俺はその目標を達成するんだ!」
「……え?」
「さあ、これを受け取りたまえ!」

ぽん、と渡される透明な液体が入ったビン
…なんだろうこれ
毒?毒かな
もしかして先生、僕のことずっと嫌いだったとか
有り得ないこともなくはない…けど
それはさすがに傷つくぞ!

「納豆が見えなくなる薬だ!」
「………えっ?」
「臭いさえも感じない、君の視界から納豆は完全に削除されるのさ!」

きらきらとした目で言われる
…………えーっと、先生
一つ、質問しても良いですか

「良いよ?副作用とかは、ないと思うけど…
「いや、そうじゃなくて…
どうして僕が納豆を嫌いだって知ってるんですか?」

きょと
とした顔をされる
うわあ、童顔だ…
高校二年生に見える…

「皆知ってるさ」
「…え」
「ちなみに僕は戦場ヶ原さんにきいたけど?」
「ええ!?」
「杏里ちゃんとセルティも一緒にいたね」
「えええ!?」
「だから僕は忍野先生にまわした!」
「どうして!?」

「暦さーん!」
「きっ、紀田!」
「納豆が嫌いなんだろー?いやらしいから!」
「なんだその理由!?ありえないだろ!」
「まったまたあー皆知ってるっつーの!」
「み、みんな!?」
「おう!撫子ちゃんも、多分神原駿河も知ってるぜ!」
「えええ!?」

「阿良々木くん!」「阿良々木さん!」「阿良々木先輩!」
「は、羽川先輩…八九寺、神原!
も、しかして…知って…?」
「納豆をなんだと思ってるの?まったく」
「同感だ。さすがにそれはないぞ」
「そうですよー納豆は健全第一です」
「健康第一だから!というか、え、ええ、何その誤解いいい」

「よっ! 阿良々木くん」
「お、忍野!」
「元気だねえ相も変わらず
納豆にまで新たな可能性を見いだしちゃうなんて」
「それは誤植だ誤解だっつの!」
「ツンデレちゃん怒ってたぜー
眼鏡っ娘ちゃん引き連れて君を捜してた」
「う、うそだろ…」
「しかし規則の見本って感じの君がねー」
「それこそ嘘だろ!」
「嘘じゃ…ないよ」
「うわ、千石!」
「暦お兄ちゃんも…思春期、だもんね」
「だねー」
「黙れ!」

「阿良々木くん」
「…………せ、戦場ヶ原…」
「阿良々木くん、良いのよ言わないで
わかってるわ
私が頑なに貞操を守ろうとするからいけなかったのね
羽川さんのようにオープンな雰囲気にするべきなんでしょう
でもね、阿良々木くん
いくら私が羽川さんほどオープンではないにしても
その矛先を納豆に変えるなんて、いかがかしら?
いかがわしいにも程があるわ」
「ち、ちが、ちがううんだあああ」
「確かに納豆はまあ雄猫の睾丸にクリソツだけれど
それはそれで問題になるわよ」
「大問題だよお前が猫の睾丸を見たことあるという事実が!」
「職場体験学習のたまものね…あら、下ネタかしら」
「そんな低レベルなギャグは求めてない!」
「五月蠅いわねハエの癖に黙りなさいよ、ねえ杏里?」
「はい、戦場ヶ原先輩…」
「そ、園原まで!」

どうして
どうして皆こんなに勘違いしているんだ!?
一体何人に広まってるんだよ!
一年、二年、三年、学食にいる生徒達、教師まで知ってるって…
もう全校生徒に知れ渡ったような物じゃないか!
だれがこんなことをしたって言うんだよー!

「お、忍野ぉ!
お前一体、誰からきいたその噂!」
「センセイなんだけどなー、僕も
岸谷保険医だよ」
「岸谷先生!」
「私はねーセルティと一緒にいたんだけど
そこに戦場ヶ原さんと杏里ちゃんが来てね」
「戦場ヶ原!園原!」
「私達は千石ちゃんからきいたわ」
「はい…」
「千石!?」
「わ、わわ、わたしは…」
「ちょっと、 阿良々木くん
顔が恐いわよ」
「は、羽川先輩…先輩は誰から!?」
「私?私は張間さんから
真宵ちゃんと神原さんもいたわ」
「はい!」「うむ!」
「張間?張間って…」
「はい、私です」
「矢霧くんの、彼女の」
「はい、私は誠二からききました
ねえ誠二?」
「ああ
紀田だったかが渡り廊下で叫んでいるのを聞いて
それを話した後にはぐれたんだよな」
「うん!でも、愛の力で巡り会えたの!」
「紀田が叫んだ?どういう…」
「あ、あの、暦お兄ちゃん!
な、撫子はね、正臣君からきいたよ!」
「紀田ぁ!」
「え、俺かよ!俺はー…
…………あれ?
………………えー…っと…」
「…………紀田?」

もしかして
お前
僕に怨みがあってこんな噂を流したのか?
ああ?

「ち、ちょっと待ってくれ暦さん!
あ、あーっと…そう!そうそう!
俺、俺臨也先輩から回ってきたんだ!」
「折原から?」
「ああ、そう言えば
私も臨也先輩からきいたぞ」
「そうなのか!?」
「わけまではその時は知らなかったがな」
「じゃ、じゃあ、折原がこの噂を――――――」





ガチィイイインッ!!!
僕の前を何かが通り過ぎて
壁に―――いや
一枚の布を、服を突き抜けて
壁に突き刺さった

「―――臨也さん」

ぎぎぎ

飛んできた方向を、向く
見れば、手に何十本もボールペンを持った帝人が
そう、まるで皇帝のように立っていた

「話――聞かせてくださいね?」
「………はい」

そこには、無様にも
たった一本のボールペンに動きを封じられている
すべての元凶、情報屋、折原臨也の姿があった





broke out!!



(俺はただ、阿良々木くんの納豆嫌いを伝えていただけなのに!)






あきゅろす。
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