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21
雨降って地固まる 21


無造作に撥ねた水色の髪、瞳と同じ色の赤いピン留め。
身長はそれほど高くなく、制服はやや改造しているようだ。
比較的可愛らしい顔つきであるが、いつも不安そうな表情をしている。

「こんにちは、蓮司(れんじ)先輩に零」

志乃が穏やかに笑う。
藍色の髪が揺れて、志乃の前に膝をつくと志乃の手をとって甲に唇を落とした。
まるで当たり前のように蓮司と呼ばれた男は、どこかの気障な紳士がするようなその行為を自然とやってのけた。
志乃も慣れているらしく、一切抵抗しなかった。

「そちらは志乃君のお客様ですか?」
「いえ、生徒会のお客様です」

やがて、その矛先は俺へと向けられた。
俺に興味を持ったのか、じっと視線を向けてくるので仕方なく立って頭を下げた。

「1年A組の白雪 姫乃です」
「これは失礼、僕は2年B組 瀧花 蓮司(たきはな れんじ)以後お見知りおきを……」

志乃にしたように俺の手を取ろうとしたので、俺は振り払った。
俺はどうしても人に触られるのに抵抗がある。
でも、恭夜先輩に触られるのは嫌じゃない自分がいて、その矛盾が嫌になる。
なぜだか、わからないけれど恭夜先輩だけは俺にとって特別だった。
触られるのは嫌ではないし、むしろ嬉しいとさえ思える。

「……ぁ、すみません」
「とてもシャイなようだね」

茶化すように言う瀧花先輩を俺が苦手に思ったのは言うまでもない。
志乃は苦笑いを浮かべながら、カップに紅茶を注いでいる。
俺の身体は少し強張っていた。

「紅茶を淹れたので、どうぞ」

志乃が瀧花先輩をソファーに座るように促した。
瀧花先輩はそれに従ってソファーに座ると後ろにいた零が固まっていた。
どうしたのかと首を傾げると、零はパッと笑顔になって俺に抱きついた。

「せっちゃん」

腰あたりに腕を回して、離れそうにない零の柔らかい髪を撫でた。
零は俺にとって弟みたいな存在だ。
甘え上手で、寂しがり屋で、とにかく守ってあげたくなる。

「せっちゃん、会いたかった」
「うん、俺も」

周りから見たら、どう見えるんだろう。
兄弟、友達、それとも恋人だろうか。
どれにでも見えるかもしれない。
だけど、そのどれとも違う。
零はセツを知っていて、俺は零という人間を知っている。
俺と零は特別な関係、秘密を共有する関係にあたる。
誰にも口外しないことを条件に今の関係になった。

「零、今は俺は白雪 姫乃だから」
「ひの?……ひーちゃん?」
「うん」

零とはあくまで仕事の関係だったので、本名を教えていなかった。
これからもそのつもりだったのだが、状況が変わった。
この学園にいる以上は零といずれは接触してしまうだろうし、セツのことがバレるのも厄介だ。

「ひーちゃんのお洋服は、もうできてるんだよ」
「いつもありがとう」
「僕はひーちゃん専属だからね」

無邪気に微笑む零の頭を優しく撫でてやった。
やっぱり俺にとっては弟みたいで可愛い。

「和やかな雰囲気のところ申し訳ないんだが、二人の関係は?」

志乃と紅茶を飲んでいた瀧花先輩が話しかけてきた。
どうやら異様に仲の良い俺たちの関係が気になったようだ。
瀧花先輩に言っていいのかわからず、俺はどう答えていいのか迷った。

「零は姫乃の専属デザイナーですよ」

見かねた志乃が横から口を挟んできた。
その一瞬は瀧花先輩が納得したように見えたが、すぐに新たな疑問は生まれる。
零は自分が決めた人の為にしかデザインしないデザイナーだ。

「零はセツの専属じゃなかったのか?」
「そうですよ」

そんなこと当たり前のことじゃないかと言わんばかりに淡々と志乃は答えた。
これで、瀧花先輩は全部真実に結びつけただろう。
零が専属デザイナーとして付いているのがセツであり、俺だということに。

「まさか……本物?」

信じられないというように目を見開き、瀧花先輩は俺の顔をじっと見た。
そんなに見ても何もわからないだろうに。
零は俺から離れてソファの隅っこに座ってこちらの様子を窺っていた。
あくまで自分は傍観すると言外に言っている。
瀧花先輩が俺に手を伸ばして、あと数センチで頬に指先が触れる瞬間。

「触るな」

瀧花先輩の手が震え、止まった。
その声は先程から胸の奥で何度も会いたいと願った人のもので、俺は嬉しくて仕方なかった。
これは運命じゃないかと思うくらい俺は胸が熱くなるのを感じた。

「姫乃に触るな」

姿を見ていないけど俺の後ろにいることくらいわかる。
背後から近づいて来る足音に胸が高鳴る。



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