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24
季節外れの編入生 24


出入口に立っているのは邪魔になると思ったので、呉羽に促されて奥の窓際の席に座った。
天井のステンドグラスから差し込む光は角度によって輝きを変え、いろいろな表情を見せてくれる。

「寛いでも大丈夫だよ、ここに来る人なんかいないから」
「え、何で?」
「言ったじゃん、知られてないって」

嗚呼、そんなことも聞いた気がする。
驚きすぎて、あまり話を聞いていなかったみたいだ。
壁や床は落ち着いた白、天井は一面がカラフルなステンドグラスで敷き詰められ、静かな雰囲気だった。
それなりの広さがあるにも関わらず、周りを見ても誰一人いない。

「Sクラスしか入れない特別棟だし、校舎の東側は怖がって誰も近づきはしないから好都合だからね」
「何で怖がるの?」
「ま、それは追い追い話すよ」

何か含みがあると思いつつも、俺はそれ以上追及することはできなかった。
きっと今は知らない方がいいのかもしれない。
どうであれ、東側には一人で行かないようにしよう。

「オーダーの仕方は食堂と一緒だから大丈夫だよね?」
「ん……知らない」
「えぇっ!昨日の晩ご飯はどうしたの?」
「葵兄たちが……」
「あぁ、やっぱりね」

予想していたというように呉羽は納得していた。
もちろん俺も何となく呉羽が、思っていることはわかる。
俺も前々から思っていたが、兄たちは形が違うにしろ少しばかり心配性すぎるのだ。

「んっとねー説明するね」
「うん」
「まず、何にするかをメニューから選ぶ」

そう言って、机の端にあるタッチパネルを操作する。
和食、洋食、中華から民族料理までメニューはかなり豊富だった。
画像付きで見やすいし、どれも美味しそうだから何にしようか迷う。
昨日は甘やかされて食べ過ぎてしまったが、一応俺はモデルをやっているわけだから体系維持は基本だ。
とりあえず、軽くサラダを口にするだけにしよう。

「決まった?」
「うん」
「そしたら、端にあるカードリーダーにカードを通して……あ、カード貰ったよね?」

呉羽は持っているゴールドのカードを見せた。
シリアルナンバーの入ったそれは、色が違うにしろ昨日貰ったばかりのものと同じだった。
しかし、残念なことに俺はうっかり部屋に忘れてきてしまっていた。
取りに帰ろうにも、カードがなければ部屋に入ることすらできない。

「……忘れた」
「いいよ、何となくそんな気がしてたから」

俺がカードを持っていないことさえ、わかっていた呉羽は凄い。
従兄弟ってだけあって付き合いは長いし、相手の性格を理解してるだけあって何かしら助けてもらっている。
いつも迷惑かけてばかりで申し訳ない気持ちになるけれど。

「今日は俺の奢りね」
「ありがとう」
「いえいえ、我等が姫の為ですから」

茶化す呉羽を睨み上げながら、少し安心した。
しばらく会っていない間に変わってしまったのではないかと思っていたからだ。
俺だけ取り残されて、追いつけないところまで離れて行ってしまわないか心配なのだ。
志乃が知らない間に秘密を作っていたように呉羽も俺を置いてどこかに行ってしまいそうで恐いのだ。

「ここにカードを通したら、タッチパネルで料理を選んで注文終了」
「便利だね」
「まあね、俺は洋食Bセット……ヒメは何にする?」
「サラダのシェフオリジナル・レモンドレッシングとアイスミルクティー」
「……だけ?」
「昨日食べ過ぎたから」

渋々といったように呉羽はタッチパネルを操作して注文してくれた。
今度、写真集を出すから今太ったりするわけにはいかないんだ。
一番綺麗な時を残してくれるから、写真は好きだ。
それに写真に心の深い闇は映らないからいい。
のんびりとウェイターさんが運んできてくれた昼食を摂りながら、呉羽との会話を楽しんだ。

「あ」
「どしたの?」
「揚羽は元気にしてる?」
「あぁ……うん」

揚羽っていうのは、呉羽の弟だ。
弟と言っても、俺たちと血の繋がりはない。
孤児だった揚羽を日向さんが養子に迎えいれたのだ。
それまでのいきさつは詳しく知らないが、この間留守中に俺を訪ねて来たらしい。
何でも相談したいことがあるとか言っていたが、連絡がないので忘れてしまっていた。
今度、改めて連絡しよう。

「結局、揚羽は一色学園にしたの?」
「ううん、こっち受けた……来年は高等部に上がってくるよ」

実は、俺は揚羽と指で数えられるほどしか会ったことがない。
揚羽が姫宮の養子になったのが、ちょうど俺の留学が決まった頃だったからだ。



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