[携帯モード] [URL送信]
星空物語
星空物語


学園から寮への帰り道、あまりにも星空が綺麗だったから。
葵は寮に着くやいなや、寒いからと嫌がる茜を無理矢理引っ張って夜の散歩に出かけた。
お揃いのマフラーと手袋をつけて、手袋の上から互いに手を繋いで。
空を仰ぎながら、ゆっくりと人気のない道を歩く。

「きれー……」

茜の吐いた白い息が、漆黒の夜空へと消えていく。

「今日は星がたくさん見えるな」
「うん、綺麗……」

嬉しそうに夜空を見上げる茜の横顔。
満天の星なんかよりも綺麗だと思った。

「なんか、こうやってると星空に吸い込まれそうだね」

そうだな、と言おうとして、葵はびっくりして目を見開いた。
吸い込まれそうだと口にした茜が、ぼうっと淡い光に包まれていて。
本当に、このまま消えてしまうのではないかと思ったのだ。

「葵?」

握りしめる手に力が加わる。

「葵?」

もう一度名前を呼ばれて、心が落ち着いた。
茜の体温が手袋を隔てて伝わってくる。
茜は確かにここに、俺の隣にいる。
そんな安心感と一緒に。

「茜」
「うん?」

街灯の光から抜けると、茜を包んでいた淡い光が消えた。

「そろそろ戻ろっか」
「……もう?」
「うん……身体、冷えてきたし」
「そうだね」

俺はもう一度、茜の手を強く握った。
あまりに綺麗な夜空だったから茜を誘ったわけだけど。
やっぱり遙か遠くにある星々なんかよりも、すぐそばにある自分だけの一等星のほうが比べものにならないくらい綺麗で大切に感じた。



*END



BACK/TOP







第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!