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06
極彩色 06


先程よりも更に下から見上げるキョウちゃんは格好良い。
いつも格好良いのだが、いつも以上に格好良いのだ。

「見惚れた?」
「っな!」

ついつい見惚れてしまっていて、キョウちゃんに指摘されるまで気づかなかった。
ふっとキョウちゃんから目を離し、脚立に設置されたカメラのレンズに視線を向ける。
変に緊張してしまって、笑う表情が上手く表現できない。

「ほら、笑え」
「うう……緊張して笑えない」
「後でケーキ食べさせてやる」
「本当っ?」

ケーキの話題で気分が高揚したところをフラッシュが明るくした。
お菓子の話に頬を緩めていたであろう自分の顔を写真に撮られた。
これほど恥ずかしいものはないだろう。
俺は立ち上がって、キョウちゃんの胸を拳で何度も叩いた。
こんなの羞恥プレイでしかない。

「馬鹿馬鹿馬鹿……、やっ」

されるがままだったキョウちゃんが急に手首を掴んだかと思うと俺の膝裏に手を差し込み、もう片方の手は腰を支えるように抱き上げた。
そして、その体制のまま俺がついさっきまで腰かけていた椅子に腰かけた。
すると俺は必然的にキョウちゃんの膝の上に座ることになる。
最近少し太ったので、あまりキョウちゃんに抱き上げられたり、膝に座ったりしたくない。

「キョウちゃんっ」
「じっとしないと着崩れするぞ」
「っ……」

キョウちゃんに指摘され、少し着崩れした衿元を素早く正す。
仕方なく大人しく膝上に座ることにした。

「軽いな……もっと食べさせないと駄目だな」
「むぅ、最近太ったんだけど」
「幸せ太りか?」
「ある意味そうかもね」

視線が合うと自然と笑みが零れて、キョウちゃんも釣られて笑う。
幸せ太りなんか経験しちゃって大丈夫なのだろうか。
まだモデル辞めたわけじゃないし、あんまり肉付きがよくなるのはよろしくない。
太股を摘みながら、小さく溜め息をひとつ零した。

「ぷにぷにの真ん丸になっちゃうよ」
「真ん丸は駄目だな、姫乃は触らせてくれなくなる」
「うん」

それはそうだ。
太ってる自分なんか誰だって好きな人に見せたくないし、見られたくない。
まして触られるなど絶対に嫌だ。
もし太っていることで嫌われるなら、絶対に見せないし、触らせたりしない。
キョウちゃんに限って、そんなことはないだろうけどないとは断定できない。
本当は嫌なのを我慢したりする人だから。

「でも、もう少し太っててもいい」
「やだ……お仕事できなくなるもん」
「仕事もほどほどにしてくれないと妬くぞ?」
「むむ……」

キョウちゃんって意外に独占欲が強いみたいで、俺はいつも翻弄されてる。
しかも、かなりの心配性で過保護だから、時々びっくりする。
でも、そんなとこが好きだったりするんだけどね。
愛されてるって実感できるから。

「こら、母親がいる前でイチャつかないのっ」

ピンクっぽい雰囲気が出ていたのか、お義母様がキョウちゃんの頭を小突いた。
いかにも不機嫌そうな顔でキョウちゃんはお義母様を見上げ、俺はキョウちゃんの膝の上で暴れた。
すっかり雰囲気に呑まれて忘れていたが、この部屋には俺とキョウちゃん以外にもお義母様や執事さんたちがいたのだ。
本当に恥ずかしい失態だ。

「嫉妬する男ほど見苦しいものはないわよ」

お義母様の的確とも言える発言にキョウちゃんの眉間の皺が一本増えた。
飄々とした態度のお義母様はそれを気にもとめず、上品な足取りでドアへと向かった。

「朝食は八時からよ、遅れないようにね」

そう言うとお義母様は、横瀬さんが開けたドアから出て行った。
その後を追うように梅澤さん、赤坂さん、横瀬さんが一礼して退出した。
二人になった広い部屋に沈黙が走ったけれど、見つめ合っていたら自然と笑みが浮かんだ。

「あ」
「どうかした?」

キョウちゃんは、ある一点を見つめていた。
俺はその視線の先を追い、あるものを見つけた。
新しい年を迎えていることを意味する日めくりカレンダーの一番上、“元旦”の文字。

「姫乃、明けましておめでとう」
「おめでとう、キョウちゃん」
「今年も精一杯愛するからな」
「うん、離さないでね」

今年も精一杯愛してくれるなら、離さないで。
毎日、沢山の愛を他に向かないくらい贈って。
俺は、ずっと恭夜が好きだから。



*END



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