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01
黄昏 01


トランプには、いろいろな遊び方がある。
中でも、ポーカーは自身の運の強さが試されているゲームだと思う。

「ストレート」
「フラッシュ」
「フルハウス」
「……ワンペア」

綺麗に揃ったクラスメイトたちのカードを見て、溜め息を吐く。
僕、綾瀬 鳴海はまったくと言っていいほど運がない。

「で、僕は何すればいいの?」

そして、何かを賭けると僕は必ず負ける。
つくづく自身の運の無さを恨めしく思う。

「じゃあ、三年の女郎花 悠先輩に……」
「キスするってのは?」
「いいじゃん、それ!」

勝手に盛り上がってくれているところ申し訳ないのだが、その提案にだけは賛成できない。
なぜなら、女郎花先輩は僕の憧れだから。
勉強もできて、スポーツも万能で、格好よくて、人当たりもいい。
これほどまでに完璧な人間はいないだろうと思うくらい僕にとっては完璧な人。

「鳴海ちゃん、女郎花先輩にキスしてこい!」
「ちょっ!無理だって!」
「大丈夫……鳴海ちゃんは女子と見紛うくらい可愛いうちの学園のアイドルなんだから」

そう、僕はこの女子が一人も存在しない男子校でアイドルとして崇拝されている。
それはそれは悲しいくらい男に告白されること百回以上、ラブレターの数は一日百枚以上、必要以上のボディタッチなど異常なくらい男にモテる。
元々顔が女っぽく、背が低いことからか、僕をクラスメイトたちが“鳴海ちゃん”と呼び始め、今にいたる。
たぶん僕のことを知らない生徒は、この学園にはいないだろう。

「無理だって!」
「はいはい、ぐだぐだ言わない」
「あ、ちょうど女郎花先輩がいる」

僕の視線は廊下へと向く。
ドアの小窓から女郎花先輩の灰髪がちらりと見えた。
うっとりとそれを見ていた僕の手を掴んで、クラスメイトたちは廊下に引きずり出した。
頑張れよとだけクラスメイトたちは言って、教室のドアを閉めて無情にも中から鍵をかけた。

「あっ!ちょっと……っ」

笑顔で手を振るクラスメイトたちをこれほど恨めしく思ったことはなかった。
それと同時に女郎花先輩の前に引きずり出された僕は、明らかに動揺していた。
憧れの女郎花先輩が目の前にいる、そう思うだけで胸が高鳴る。

「えっと……綾瀬 鳴海くん?」

落ち着く低音の声が、確かめるように僕の名を呼ぶ。
それだけで、胸が張り裂けそうだった。
言葉を交わすことさえ烏滸がましく思えてしまえて、返事を返せずに頷くだけ。

「顔赤いよ?熱あるんじゃないの?」

俯いている僕の額に手をあてて、先輩は難しそうな顔をした。
冷たくて気持ちいい手だな。
けれども、体温は下がるどころか余計に上がったように思う。

「ちょっと保健室行こうか……歩ける?」

僕は静かに頷いた。
しかし、歩けるというのに先輩が僕を抱き上げた。
世間で言う姫抱きというやつで、少しばかり抵抗をしたが、先輩はおろしてはくれなかった。

「大人しくして……何もしないから大丈夫だよ」

その優しげな言葉に僕は身を委ねた。
心臓の音が先輩に聞こえてないのか、心配で仕方なかった。



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