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愛のかたまり(小説)
『愛の才能』A(テロ)


しばらく呆然と上條が出て行った扉を眺めていたが、ハッとして机に向きなおす。

まだ動悸が収まらず、とりあえずタバコに手をのばした。


すぅ〜〜〜 はぁ〜〜〜〜


すぅ〜〜〜 はぁ〜〜〜〜



なんとか冷静になろうとする。

冷静さと客観的に物事を見ることができるのが俺の強みだったじゃないか。

なにを上條の爆弾にこんなにうろたえて……


『男としてこの状態に陥るのは…、結構辛いものがありますんで』

『教授も気をつけてあげた方がイイッスよ……』

さっきのその言葉がリプレイされる。


上條のさっきの痛がりよう

辛そうに歩く姿

気だるそうな雰囲気……。


どんな風に抱かれたのかは知らないが、かなり身体に負担がかかっているのは分かる。
それもそうだ。抱かれ方や回数ではなく、男が「抱かれる」という行為には負担がかかって当たり前なのだ。

そもそも他人を受け入れるように創られてはいないのだから。

気づいては……いた。

ただあまり認識していなかったというか…

そもそも俺はストレートだ。
忍のことも男だから好きになったのではない。忍だから……。だからあくまで抱く時も自然な流れで。

忍……。

そういえば忍を抱いた翌朝はいつも俺が先に家を出る。そして毎日会えるワケではない。

だから俺に抱かれた後の忍の姿はあまり見ていない。

確か初めての時は……立てなかったんだよな。

ただ最近は良い意味で慣れてきて、俺もこれでもいろいろ調べて、なるべく負担のないように準備やら後始末やらをしているつもりだったが…////


って一人で照れるな俺〜〜!!
ますます危ないオジサンじゃないか!!(汗)


とにかく、とにかくだ!

…忍もさっきの上條のように身体に負担を感じているんだろうか。抱かれている時だけでなく翌日まで痛い思いをしているんだろうか。

俺の欲のせいで忍に…ツライ思いをさせているのだろうか。



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リビングの扉からもれる電気のあかり


テレビの音


『今夜は来てんのか』


やや残業をこなしてから帰宅すると、忍の気配。

それだけで心が温かくなる。

ガチャリと扉を開けると、ソファに座っていた忍が立ち上がった。

「なんだ、思ったより早かったじゃん。メシは?」

と、可愛げのないおコトバ。

「あのなぁ、おかえりなさいくらい言えよ(汗)……久しぶりだな。」

「……え。あ、ぉう、久し…ぶり…」

前に会ったのは5日ほど前。それから電話もメールもしてなかったもんだから、久しぶりだと認識したとたんウチの純情忍チンはいきなり緊張してしまった模様。


…全く、19のくせに行動が可愛いんだよ。やっぱりガキだな〜ガキ


「おい宮城。ガキ扱いすんな。」

「は、はい!!?…って、いや!そんなこと思って」

「顔に出てんだよオッサンが。ったく、とりあえず座れば。」

「あー……はいはい。」


コイツ意外に観察眼あるな…(汗)
いや、だったら、どうせなら『可愛い』の方を見抜けよ(汗)


「んで?夕飯作る?」

「いや、いい。食ってきたから。」

「ふぅん。」

よっこらしょ、とソファに座る。


テレビを見ればこの時間にやっているニュース。
机の上には俺が渡した参考書。
隣には忍チン。
そしてー……



………ボディソープの、香り?



「?お前、もう風呂入ったのか?」

そのわりにはパジャマではなく私服だったりする忍に問いかけた。

「え。あー…き、今日暑かった、し…?」

なんだ、また顔赤くして?変な奴…

「い、言っとくけどアンタみたいな変なこと考えてねぇから!ってかそうゆうデリカシーないこと聞くところがオッサンなんだよ!バカ宮城!!」


「は??……………」





「あ。」



そうか。そういうことか。
意外と大胆だなー忍チン。
まぁ〜前に一緒に寝たのは5日前だし?
そりゃぁ……な。


明日も仕事だが幸い1限はない。なにより忍が準備までしてるわ可愛いわで、俺も大人しくしていられそうにない。



「しのぶ………」

片腕を忍の腰に回して、身体を寄せる。

「み…みや…」

とまどいがちの忍に誘われ、顔が近づく。




唇が触れるまで、あと3センチー…



しかし



『男としてこの状態に陥るのは…、結構辛いものがありますんで』


『教授も気をつけてあげた方がイイッスよ……』




「…………っ!!」


欲望に支配されかけた俺の頭に、ふっと上條の言葉が降りてきた。

そうだ、明日は平日。

忍は当然大学がある。

ましてや俺は今帰ってきたばかりで忍とろくに会話もしていない。まさに俺は


『自分のことしか考えていなかった』



……………





チュッ。



海外でいうフレンチキスと同じく、あくまで軽く、忍の唇にキスを落とした。そして。

「……あー……夕飯。そう!お前ちゃんと夕飯食ったか!?それにしてもやっぱ腹が減ったな〜。なんか作るかぁ〜」

と言い残すと、そそくさとソファを立ちキッチンに逃げこんだ。


「…っ、こんな、時間に…?」


「太らんように気をつけんとな〜☆はははははは。」


忍の方は見ないで、とりあえず笑ってみるが


まずい。ちょっと、いや、かなり怪しい行動だったと思う、自分でも。



だが………ショックだったんだ。

自分のことしか考えていない自分に。いくら忍が望んでいることだったとしても相手はまだ未成年。自分のことすらも判断がつかないような相手だ。そんな相手だからこそ、俺がしっかりしなくてどうする。

感情のまま動いてどうする。


コイツを想うんだったら、単純に欲をぶつけるなんてことはするべきではない。


だったら俺に今できることは


「……忍。悪いが先寝てろ。実は今夜中に終わらせないといけない仕事があってな。」

「………いい、終わるまで起きてる。」

「朝までかかるかもしれん。明日大学だろ、いいから寝とけ。」

「っ!なんでっ!オレは…っ」

「………………。」

「………アンタ、は……」

「………………。」




忍を見ることができない。

決心が揺るがないように。我慢することを忘れていたこの心を抑えるためにー…




「……分かった。」



そう呟いたその声は、いつもの不機嫌、という感じではなくて。

「じゃぁ、帰るから。」


「仕事、頑張りすぎんなよ。」




え………


パタン ----


こちらから声をかける隙もなく、ヤツは帰っていった。

やけに素直だが、なんだか以前忍が迫ってきて最初に抱こうとした時(俺は本気ではなかったが)と似ている。

自分から避けたくせに、もやもやとして気持ちが悪い。

俺は忍のことを想ってこうしたんだ。なにも後悔したり申し訳なく思ったりする必要はない。

これで良いんだ。



忍が出て行った扉を見つめていた頭を軽く振り、シャワーを浴びるために浴室へ向かった。



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