愛のかたまり(小説)
『ブラック・Black』(エゴ)@りず様リクエスト
「ヒロさんに近づく男は」
「一人だって許しません」
俺がそうつぶやくと
貴方は呆れたようにため息をつくけど
俺はいたって真面目で本気ですよ…?
病院からの帰り道。
草間野分は悩んでいた。
その理由は
…来週1週間、東北の地方にある病院に研修に行かなくてはならない、から。
と言うより、その間恋人・上條弘樹を一人にしてしまうこと。
そして弘樹に近い存在の男が、その間に弘樹に手を出すのではないか…ということ。
いつもは暖かい笑顔が特徴の優しい優しい男だが
こと弘樹のこととなると、人格が変わる
『……できればこんな事したくないですが、この際、一斉に掃除しましょうか…。』
信号待ちをしている間、そんな事を考えていた。
黒いのは、髪と瞳と服装だけではないようだ……
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まず翌日わざと弘樹に弁当を忘れさせて、休みの自分が届けるようにしむけた。
久しぶりの弘樹の職場。ここでいろいろなことがあった。眼を瞑ると、廊下で言い合いをしたこと・図書室での弘樹の涙が浮かんでくる。
そして弘樹の唇を犯そうとした、あの男の表情も---
気が付けば弘樹達の研究室の前で。
ふと中から声が聞こえてくる。
「か〜み〜じょお〜!俺を癒せぇ〜!」
「っだぁ!ウザイです教授っ!いい加減にしないとあの大学生に言いつけますよ!」
「忍チンが最近来ねぇんだよ!」
「だからって俺は関係ないでしょう!!」
声と同時にガタガタと音が聞こえてくる。
「……っ!」
バンッ!!!
思い切り扉を開く野分。
「げっ…」
「野分っ…!」
後ろから抱きついている宮城をキッと睨みつけると、宮城はゆっくりと上條から手を離し、お手上げ、というように両手をあげた…
「は、はははははは。じ、ジョ〜ダンじゃないか冗談…。」
愛するヒロさんに無理矢理抱きついておいて、何が冗談なのか。
すると
「? 野分、弁当悪いな。朝バタバタしてたから忘れちまって…」
そう言って、なんて事ない顔をして野分に近づく弘樹。
『ヒロさんは抱きつかれて何とも思ってないんでしょうか…。それとも、何とも思わなくなる程たくさん抱き締められている…?』
そう思うと、とたんに忙しそうに動き回る中年の男にますます腹が立つ。
そうだ。今日はその為に来たのだ。
ヒロさんの周りからこの男を排除するために。
「あ、ヒロさんすみません。急いで来たから喉渇いちゃって。申し訳ないですが何か冷たいもの買ってきてくれませんか?」
「え?んじゃぁ一緒に…」
「いえ、俺はお弁当広げてすぐ食べられるようにしておきますから。自販機の場所分らないですし、ヒロさん、お願いします。」
「あ…あぁ、分かった。」
そう言うと、弘樹は研究室から出て行った。
研究室には野分と宮城の二人だけ。
もちろんそうなるように仕向けたのは野分。
全ては この男を 弘樹から遠ざけるため
「宮城教授?」
「っ!はいぃっ!!?」
一瞬にしてビクつく宮城。この不穏な空気と、穏やかだがトゲトゲしい野分の声に焦る。
「な…な、にかな〜…ははは……」
「単刀直入に言いますが、ヒロさんは俺のです。触らないでください。」
にっこりと微笑んではいるが、目が笑っていない…。これを「黒い笑顔」と言うのだろうか。黒いオーラすら感じる…。
しかし宮城としても大人のプライドがある。しかも今は忍という恋人もいる。誤解されては堪らない。
「…あのなぁ、君が上條にベタ惚れだということはよ〜く分かっているし、それをとやかく言う気はない。だが俺を巻き込んでもらっては困る。安心しろ、俺にはま〜一応恋人がいる。」
「恋人…ですか」
「そ。ま〜とんでもない奴だがな。とにかく、俺と上條は上司と部下であって、それ以上の感情はない。」
「…あの時ヒロさんにキスしようとしてたのに…?」
「キスぅ!?…あ!あ、あれはそのっ」
「…ホントかよ宮城…。」
とまどう宮城をさらに慌てさせる事態発生。
なんと野分の大きな身体で宮城からは見えなかったが、宮城の恋人・高槻忍が研究室のドアを開けていた。
「ししししししし忍チンっ!!!??」
一気に冷や汗が吹き出る宮城。
一方忍はその大きな目で宮城を睨みつけ、ツカツカと室内に入ってきた。
そして宮城の襟元を掴みかかる。
「っ!宮城!!どうゆうことだよ!!説明しろ!!」
「ちょ、しの……くるし…っ」
「アンタあいつとは何もナイって言ってたじゃん!!キスってなんだ!!??」
「ば、違う!番うぞ!あれはそんなんじゃなくて!!」
「だから『あれ』って何なんだよ!!大体『一応恋人』ってふざけんな!!」
「おま…!いつから居たんだよ!」
「あの助教授が出てったの見たからドア開けたらアンタらがしゃべってたんだろ!そんなに聞かれたくなかったのかよ!!」
そんな二人を眺める野分。
頭の良い彼には、この二人の関係がどういったものであるかが簡単に分かった。
そして
ある計画も同時に浮かぶ。
「…………あ、すみません。俺の見間違いでした。」
「「…………え…?」」
突然の野分の言葉に同時に声をもらす宮城と忍。
「あの時俺かなり酔っていたんです。教授、失礼なこと言ってすみません、そういえばキスしようとしたのは俺自身でしたよね?そんな事も忘れちゃうなんてちょっと飲みすぎてました。」
そしてニッコリと微笑む野分。
その柔らかい笑顔につられて、場の空気も柔らかくなっていく。
「…………なんだ、そうゆう事かよ。勘違いさせんなよな、オッサン。」
と、掴みかかっていた両手をはずす忍。
一方宮城は
「い、いやぁ〜〜?思い出してくれたなら良かった良かった…、あっははははは」
と笑ったものの、野分の考えが読めていないようだった。いや、彼にしたら野分の考えよりも忍の怒りをどう抑えようかの方が大切だったので、野分の言葉はまさに助け舟だった。
「と、ところで忍チン?君は何しに来たのかな?」
「あぁ、今日は午後からの授業だから………アンタと飯でも食おうかと思って。」
「………さようですか……」
『そんな事でわざわざ来たのか』と呆れる一方、わざわざ会いに来てくれたことが嬉しい宮城。
「じゃぁ時間もないし学食でいいか?」
「別にどこでも」
「んじゃ行くか」
二人で話を進め、学食に行こうとする。
すると
「あ、宮城教授。」
野分が宮城の背後にスッと近づいた。
そして宮城にしか聞こえないような小声で
『もし今後ヒロさんに触れたら……キスの話、恋人さんに言っちゃいますから…』
と囁いた。
一瞬にして顔色が青くなる宮城。
固まった。
「……宮城?」
「っ!?あ、あ〜〜〜〜大丈夫だ、何でもない、ホラ早く学食行くぞ学食っ!!いやぁ〜野分君もどうぞごゆっくり〜あはははは………(汗)」
と、宮城はせかすように忍を連れてその場を立ち去った。
そんな宮城の後姿を真っ黒な瞳で見送った野分。
黒い。黒すぎる。この草間野分は、上條弘樹が関わると『人の弱みに付け込んで脅す』ということもできるようである…。
『これで一人、排除完了……ですね。』
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