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星すら届かない(骸綱)



こぽりと水泡が立つ。
綱吉は身を包む冷たさに目を開いた。

だが、一向に光を捉える事は出来ず、上も下も分からない。

冷たい水が喉を滑り、思わず咳き込む。

気付けば無我夢中で手を伸ばし、何かを掴んでいた。


「むく、」


目の前にいたのは、いつかに見た骸の姿。
痛々しく包む拘束具と、幾重にも伸びる管に、綱吉は無意識に手を這わせていた。

ふと、指先が頬に触れた瞬間、固く閉じられた目蓋が持ち上がった。

蒼い瞳が綱吉を捉えた瞬間、急激に息苦しさが戻り、綱吉は咄嗟に骸にすがりついた。
冷たい水が流れ込み、体内から凍り付く様な錯覚に襲われる。


脳裏に掠めた死への恐怖に、綱吉は体の動きを支配された。
ただ、深い闇に落ちる様な、そんな感覚が全身を包む。

綱吉が目を閉じかけたその刹那、何かが綱吉の体を勢い良く引っ張った。



「ゲホッ!ッ……ハァ、ハッ……」


突然差し込んだ光の眩しさと、肺に流れ込んだ酸素に、少しだけ頭がぼうっとなった。
幾度か瞬きを繰り返し、綱吉は目の前に誰かが居る事に気が付いた。



「こんな所で何を?」

「!」


降ってきた声は、予想を遥かに超えた人物で、綱吉は思わず出そうになった悲鳴をなんとか堪えた。


「………骸。」


骸は溜め息混じりに綱吉に手を差し出した。綱吉がそれを受け取れば、ザバッという音を立てながら引き上げられる。綱吉はそこで漸く、自分が蓮の咲く水の中に溺れていたのだと分かった。


「何で…」

「先に質問をしたのは僕の方ですが。」


骸の声もすり抜けているのか、綱吉は瞬きを繰り返しながら、辺りを見渡す。
そんな様子を見て、骸はまた一つ溜息を吐いた。


「…なんで、お前が此処に…」


ピクリ、骸の眼が薄ら大きさを増す。
それに気付かないのか、綱吉は独り言の様に言葉を続ける。


「さっき、確かに、」


濡れた掌を、綱吉はジッと見つめた。
確かに触れたと思う、その指先。
ふと、それが細長い手先に包まれて、ピクンと肩が跳ねた。


「…悪い夢ですよ、早く寝てしまいなさい。」

「……む、く…」


まるで、幼子をあやす様に骸の手が綱吉の頭を撫ぜる。
それと同時、急激な眠気が襲うのを、綱吉は感じる暇も無く意識を手放した。








「……」


ゆるりと重い瞼を持ち上げれば、青白い光が差している事に気付いた。
カーテンを閉め忘れていたらしい、窓から月が望める。


「あ、れ?」


ぱたぱたと、微かに音を立てて何かが零れた。
それが自分の目から溢れている事に気付いて、綱吉は酷く混乱した。


「何で、」


拭えど拭えど、涙は止まらない。
その理由を綱吉は見つけられなくて、否、見つけてはいけない様な気がして。



「む、くろ。」


無意識の内に出てきた名前は、何かの合図の様に脳内を掻き乱した。
込み上げてくる物を必死に抑え付けながら、綱吉は小さく何度も何度も名前を呼んだ。





こぽり、水泡が白く弾けた音は、闇に溶けて届く筈も無く。










星すら届かない
(あの手の温もりは、本物だったから)





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あきゅろす。
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