空に還る紅い涙(ザン綱)
「綱吉。」
暗闇にうずくまる小さな影。
目からはボタボタと涙を溢している。
「ざ、ん、ざっ…」
最後は嗚咽に掻き消されて上手く聞こえなかった。
歩み寄るより早く、綱吉は自身に飛び掛ってきて、顔を押し付ける様に縋り付く。
小さな頭を撫で付けながら、辺りに視線を這わす。
暗くてよくは見えないが、綺麗に飾られている筈のアンティークが、無造作に床に転がっていた。
「俺っ……」
手が、尋常ではない程に震えている。
その手をあやす様に撫でつけ、唇を押し当てた。
綱吉の手は、白い。
何も苦労などして来なかったかの様に、男にしては随分と綺麗な手をしていた。
合わせれば自分の関節程にしか届かない小さな手。節など見当たらない程にスラリと伸びる指先。
けれど
「っく、う、」
泣きじゃくる綱吉の目には、今でも赤く染まっているんだろう。
唇を押し当てる度に、涙は溢れているから。
裏の世界なんて知りもせず、平和な世界で生きて来た綱吉が、突然押し付けられた運命を受け入れるのは容易ではない。
いつか、自分と戦った時でさえ、瞳の奥底では泣いていたのに。
犠牲の上に生きる事が怖くて仕方ないのだろう。
「綱吉。」
大空が誰よりも似合う、何もかも包み込む聖母の様な白い心が、赤い海に溺れてしまわぬ様、今日も手を伸ばすのだ。
きっと赤なんて通り越した程ドス黒い紅の手で
空に還る紅い涙
(綺麗なお前に戻れるのなら、幾らでも俺が汚れてやる)
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