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夕立(沖土)


扉に手をかけ、一気に引いた。
それと同時、濁った空気が解放されたのか、鼻を掠める匂いに顔が歪んだ。


「土方さん。」


目の前の顔をちゃんと見るのは一週間ぶりだろうか。
何処か目が虚ろだ。
元々白い肌に、やけにクマが目立っている。


「土方さん。」


名前を呼んでも、気付く様子はない。
常時なら廊下を歩く音ですら気付く人だ、それ程の状態だという事だろう。
その原因を作ったであろう其れに、嫌でも目が留まる。

部屋中に散乱する、山積みの書類と書物。
そして机の脇で崩れかけた吸殻の山。


「土方さん。」

「…あ?」


真後ろに立って、漸く土方さんは此方に気が付いたらしい。
チラリと此方を振り向いた顔は、とても酷い物だった。


「酷い顔ですねィ、死人みてェ。」


そんな言葉が出たのは、無意識なのかワザとなのか分からない。
土方さんはぼうっとした目をまた書類に戻した。


「…ったく、仕様のねェお人だ。」


背中を軽く引っ張れば、何の抵抗も無く倒れ掛かってきた。
しゃがみながらそれを抱きとめて、くたりとした体に腕を回す。

此方を見上げた顔は、間近で見ると余計に酷かった。

今まで見たことが無い程に弱り切った顔。
虚ろな目は俺を映していない様で、胸が痛んだ。

何故か、怖かった。



「…総悟。」


微かに開いた口が俺の名を呼んで、胸に溢れた不安が一気に溶けた。
心地の悪い静寂を作るのが嫌で、慌てて口を開く。


「真撰組の副長が書類に殺されたなんざ、情けねェでしょう。恥ずかしくて世間様に顔向け出来やせんぜ。
つーか、アンタは俺が殺すって決めてんでさァ。勝手に死なねェで下せェ。」

「うっせェ…大体、半分はテメェが…」

「へいへい、後は俺が片づけときやすから。」


見ているのが辛くて、目の前の瞳を掌で覆った。
すると、それを退けようと弱々しく掌が重なる。
だが、みるみる内にその微弱な力も弱まって、終いには畳の上に転がった。


「土方さん?」


ぐったりと体を預ける土方さんに怖くなって、慌てて顔を近づけた。
微かに息を吐く音が聞こえて、胸を撫で下ろす。

ふと、自分の手が小さく震えている事に気付いて自嘲が零れた。


「…土方さん。」


転がった掌を手に取り、強く握りしめた。
直後に伝わった小さく此方を握り返す掌に、泣きそうになったなんて、








夕立
(愛してる、だから怖かったんだ)




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あきゅろす。
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