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白山羊さんからお手紙ついた(小政/死ネタ)


す、と扉を開けば嗅ぎ慣れた臭いが仄かに漂った。
静かに暗がりの部屋へ踏み込めば、冷たい感触が足からじわりと伝わる。


「…冷てェな。」


ぽつりと、無意識に零れた其れは、静かな部屋にはやけにはっきりと聞き取れて、今度はじわりと胸が凍える様な感覚が襲って、身震いした。

冷えた畳の上に腰を下ろし、ずるずると体を倒して行くと、井草の匂いに紛れてあの匂いが強く主張している事に気付く。
部屋の主を未だに覚えている井草に、無意識の内に爪を這わせていた。


「小十郎……」



名を呼べど、返って来る声は何もなく、ただ静寂が待っているだけだった。



ふと、何の気なしに顔を持ち上げれば、何故だか黒い漆塗の机が目に留まる。
特に誰にも触られていないであろう其れは、あの日以来持ち主を待ちぼうけしているらしかった。

体を起こし、その机にそっと手を乗せる。
こんなにまじまじと家具を見る事などなかった。其れは無意識に以前の記憶を辿っている所為なのだと思う。


不意に、カタンと音を立てて机に何かずれが生じた。天板の下半分が飛び出している。
不思議に思って其れを引っ張れば、其れが薄い引出である事に気付く。


「……Oh?」


中にあったのは一通の封書だった。
手に取ってみるが、薄暗い部屋ではあまり良く見えない。よくよく見ると、封書には誰かの名前が書いてあった。


「…政…」


そこまで読めれば、これが誰宛てかなど分かったも同然で、急いで中身を出して目を凝らせた。逸る気持ちも重なってか、冷静に書いてある字を辿ることが出来ない。それをじれったくも感じながら、窓辺へと体を移動させた。今日は丁度満月で、月の光に照らせば其れが見えるだろうと思ったからだ。





窓から洩れる青白い月明かりに照らして初めて、其れは見えた。



刹那、最後の文字がぽたりと滲んで、思わず笑いが零れる。



「Ha…あんだけ送って、返事がたったこれだけかよ…
つれねェな…小十郎。」



ぼたぼたと滲んでいく文字を、ただただ目に焼き付けていた。
空を仰げば、満月が揺ら揺らと―――





―――笑っている様で―――
















何時も、貴方の傍に






白山羊さんからお手紙ついた
(黒山羊さんたら、)



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あきゅろす。
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