誓いを立てよう(佐幸)
真夜中、もう月も天高く昇った頃―――丑の刻に差し掛かった程だろうか、佐助はふと目を覚ました。
否、目を覚ましたと言うには少し語弊があるかもしれない。佐助は完全には寝ていなかったのだから。
それは勿論、主である真田幸村の身を護る為である。
闇に紛れて、主君の命を奪わんとする者が現れるかもしれない。
只、佐助が目を開いた時、現れたのは敵ではなく、
「旦那……?」
敬愛する、主君であった。
幸村は着流しのまま、護身用の脇差も持たず、どこか足取りの覚束無い様子で闇に消えた。
それを佐助が黙って見過ごせる筈も無く、すぐさまその後を追った。
林を抜け、少し開けた所で、漸く幸村は立ち止まった。
佐助は、ああ、と声無き声と共に息を吐いて、目を瞑った。
泣いている。
嗚咽が聞こえたワケでもなく、水滴が地面に跳ねる音を聞いたワケでもない。
ただ、此処が数日前に合戦が行われた場所で、丁度幸村が指揮を執っていた場所で、沢山の命が、彼の前で散っていった場所だから。
幸村は何をするでも無く、ただただ、お世辞にも立派とは言えない墓標の前に立っていた。
きっと、自責の念に押し潰されているのだと、佐助は理解していた。此れは今日が初めての事では無かったから。
木から飛び降り、ゆっくり、ゆっくり、一歩一歩踏み締める様に幸村に近寄った。
幸村は気付いていない。否、気付いていても、此方を向くことが出来ないのかもしれない。
「旦那。」
後ろから、小さく震える身体を包めば、小さく息の詰まる音が聞こえた。
「さす、け。」
震える声で、震えた掌で、縋る様に腕に弱弱しく絡まる指先が、心を鷲掴む様で、酷く痛んだ。
「お前は、死ぬな。」
「俺から、離れて行かないでくれ。」
「佐助、お前だけは。」
ポツリ、腕が濡れた。佐助は固く目を瞑って、腕に力を込めた。
「当たり前でしょ、旦那。
俺はいつだって旦那の側にいるから。」
誓いを立てよう
(いずれ其れは破られる事になったとしても)
(アンタが笑ってくれるなら)
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