光が射したら(真伊)
「馬鹿じゃねェの。」
スッパリ投げつけられた言葉に、幸村は呆然とした。
否、最初から政宗に優しい言葉を期待していたワケではないが、それでも、酷すぎるのではないかと思った。
「ま、政宗殿…」
「馬鹿以外の何物でもねェな、真田幸村。」
「うぅぅ…」
言い返す言葉も見つからない。
幸村は唇を尖らせて頭を垂れた。
その様子を見て、政宗は笑いを噛み殺しながら、そっと幸村の頬に手を這わせた。
ピクリと、幸村の肩が小さく跳ねる。
「何も見えないってのはどういう気分だ?」
スルスルと手を滑らせて、親指の腹でそっと目の上に巻かれた包帯をなぞる。
「痛いか?怖いか?」
「政宗殿…」
包帯の上から、微かに政宗の手が震えている事に気がついた。よく聞けば、声も震えている。
「その様な顔をされては…困る。」
「Ha…見えるワケがねェ。」
「見えておりまする。」
暗闇に、そっと手を差し出した。
否、ただ一つ見えるものがある。
「見えております、政宗殿。」
そっと、左手を頬に添えた。
嫌がるかとも思ったが、政宗は動かない。
幸村は、少しずつ、政宗の眼帯に指を添えた。
「もしこのまま盲目になったらどうするつもりだ。」
「政宗、殿。」
「戦えなくなったアンタなんて無意味じゃねェか。」
「そうでございますな。」
そっと、震える背中に腕を回せば、抱きしめる前に飛び込んできた。幸村は苦笑いしながら力強く抱きしめた。
「少しだけ、このままでもいいと思っておりました。」
「…。」
無言で、背中に爪を立てられた。痛みに少し呻きそうになったがなんとか堪えて続ける。
「政宗殿の見る世界が、少し分かった様な気がしたのです。」
「馬鹿じゃねェの。」
ぎゅぅと、そのまま背中を鷲掴まれて、幸村は耐え切れず小さく呻いた。
政宗はそれに気づいたが敢えて力を緩めなかった。
「アンタ、馬鹿だ。」
「もうその様な事は考えておりませぬ。」
応える様に、腕に力を込めれば、少しだけ政宗の指の力が緩んだ気がした。
「見る世界は違う。だからこそ、政宗殿と共に居るのだというのに。
某は、本当に馬鹿者でございますな。」
「ああ、救いようのねェ馬鹿だ。」
容赦のない言葉に、幸村は思わず苦笑いした。
けれど、その言葉が何処か温かくて。
「治ったら。」
政宗が、小さく呟いた。
幸村は顔を政宗の首筋に埋めて、心地よい低音を余すところ無く耳で捕らえようとする。
「治ったら、奥州に来い。
アンタに見て貰いたい場所がある。」
「それは、楽しみでございますな。」
腕の中で、政宗が笑った気がした。
光が射したら
(この世界を貴方と共に)
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