幸せの在り方(佐小)
「行くぜ!真田幸村ァ!!」
「来られよ!伊達政宗ェ!!」
二人の声と金属音が、静かな庭に響く。
小十郎は、縁側に腰掛け、その様子を見ていた。
「錯覚しちまうな。」
「なーにが?」
上から落ちてきた声に、小十郎は平然と続けた。
「つい先日まで敵対関係に在り、命の獲り合いをしていた政宗様と真田が、こうして純粋に手合わせしているのを見ていると、な。
いい加減降りてきたらどうだ、忍。」
「じゃ、お言葉に甘えて、と。」
話を打ち切り、天井に潜む佐助にそう言えば、佐助は音も無く小十郎の隣に着地した。
「で?何を錯覚しちゃうって?」
「ああ。」
話の続きを要求する佐助に、小十郎は思わず苦笑いした。
全く、自分でも馬鹿な事を考えていると思う。
「平和だと、錯覚しちまう。」
一際、高い金属音が鳴った。
一瞬気は取られるが、それ程でも無い。
二人は"手合わせ"をしているだけだと分かっているから。
「戦乱はまだ終わっちゃいねェ。
織田、豊臣、脅威はまだまだあるってのに。」
小十郎は小さく自嘲した。
佐助はきっと、呆れているだろうと思ったが、話を続けた。
「そもそも、武田と同盟を結んだのも、乱世を生き残る為だ。
だが―――」
前を見れば、政宗と幸村が激しく打ち合っている。
しかし、戦の時とは違い殺意はまるで無い。
そんな様子を見ていると、思ってしまうのだ。
"平和"なのだと。
「俺様も、そう思うよ。」
「あ?」
突然佐助が呟いた言葉に、小十郎は思わず其方を見た。
佐助は相変わらず笑って、冗談交じりに続けた。
「だってさ、こうやって竜の旦那のところで、こんなに気抜けるだなんて考えらんないよ。
旦那が竜の旦那と武器を交えてても、こうやってアンタの隣に座ってても、何も考えずにいられる。」
小十郎は知っていた。
佐助は冗談交じりに話すが、その言葉は全て本意だということを。
それは、彼が本物の"忍"である事を知るからこそ、だ。
冗談でこの様な事を言える程、佐助は生温い世界に浸かってはいない。忍はきっと平和から一番遠い存在であるから。
「ま!平和になっちまったら、俺らはお役御免なんだろうけどさ。」
困った様に笑いながら、空を仰ぐ佐助に、小十郎もつられて空を仰ぐ。
澄み切った青空に、雲が流れている。
「でも、アンタとこうやって空を眺められるなら、それも悪くない。」
「…そうだな。」
幸せの在り方
(お前とまたこんな風に笑い合えたら)
[back][next]
無料HPエムペ!