月に恋する(政小)
「月が欲しい。」
主がふと呟いた言葉に、小十郎は呆気に取られた。
昔から物欲が強く、またそれを何としても手に入れてきた政宗だったが、まさか月を欲しいなどと言うとは思ってもいなかった。
「お言葉ですが、政宗様。」
「Ah?」
「月は、手に入る様な物ではございませぬ。」
「…分かってるさ。」
自嘲気味に笑った政宗に、少し疑問を抱きながらも、小十郎は続けた。
「突然、何故そのようなことを?」
「突然、でもねェ。
…昔っから欲しかった。」
ふいに立ち上がり、庭の池を見つめながら、政宗は呟いた。
月光に照らされたその姿がどこか儚げで、小十郎は少し不安になり、慌ててその後を追った。
「でもな…あんな綺麗に光る月を…俺如きが手に入れていい筈がねェんだ。」
月に向けて伸ばした手を力無く降ろして、その手をジッと見つめる。
その姿には、いつも奥底に眠ってある哀愁の様な物が漂っていて、小十郎は、どこか悲しくなった。
「政宗様。」
小十郎が名を呼べば、政宗は、少し寂しげに振り返った。その表情に、また小十郎の胸は痛んだ。
「真の竜となりし時、月すら貴方の眼下にございましょう。」
薄ら微笑んだ小十郎に、政宗は泣きたくなった。
月に恋する
(貴方の目に映る月になりたくて、仕様が無いのです。)
(一番近くに居る筈なのに、どうしてお前はこんなに遠い。)
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