今か今かと(佐幸)
第一印象は、それはそれは酷かった。
「さすけ!」
舌足らずに己の名を呼ぶ、この小さな子供が己の主人だなんて、冗談だと思ったし、冗談だと言って欲しかった。
「さすけ!」
名を呼ばれて、仕方なく姿を見せれば、満面の笑みで"忍"を出迎えて、遊びに付き合わされるばかり。
「佐助!」
年を重ねて、漸く遊びに付き合わされる事も無くなり、少しずつ仕事もくれる様になった。
「さ…すけ…」
忘れもしない、初めて暗殺という大役を任せて貰ったあの日。
早々に仕事を終わらせて、そのまま報告に行ったら大泣きされた。
返り血を見て、俺様が死ぬと思っただなんて言うから、つくづく呆れた。忍の命を気にかける主人なんて聞いた事が無い。
「さすっ……才蔵!」
次の日、俺様の名を唐突に打ち切って、違う忍の名を呼んだりするから、俺様は酷く腹が立った。
「才蔵!」
次の日も、次の日も、一向に俺様の名は呼ばれる事が無く、俺様は酷く苛立っていた。
「さっ」
"才蔵"と呼ぶ前に姿を見せてやれば、驚いた様に目を丸くして、その後何故か嬉しそうに笑った。
「佐助。」
柔らかく言い直された自分の名に、何故だか、心が落ち着いた様な気がした。
「佐助!」
また次の日から名前を呼ばれる様になり、俺様は何故かそれが待ち遠しい様に感じ始めた。
「佐助!」
戦場でも、城内でも、何処に居ても
今か今かと
(あ、今日も呼ばれた)
[back][next]
無料HPエムペ!