言葉を埋めたのは(親就)
「長曾我部。」
静かに扉を開き、名を呼べば銀色がピクンと跳ねた。
「おう、元就じゃねェか。」
ニッと笑顔を浮かべ、隣に座れと促す元親。
だが、元就は少し顔をしかめ、元親の真後ろに立ち尽くした。
「元就…?」
「何があった。」
元就の問いに、元親の隻眼が見開かれる。
元就は元親の銀髪に指を這わせ、何度か撫で付けた。
「我に隠し通せるとでも思ったか。」
「…」
「フン、鬼ヶ島の鬼が腑抜けたものよ。」
スルリと、元就の指先が元親の首筋にすべる。
元就の突然の行為に、元親が目を見開いた刹那、
「フンッ。」
「いってェェェェ!!」
ガチッと嫌な音を立てながら、元親の首が大きく仰け反った。言わずもがな、原因を作ったのは元就で。
「テメッ、何し、」
思わず出かけた暴言は、降りてきた影に吸い込まれた。
元親の隻眼がパタパタと数回瞬いて、漸く影が離れる。
「元、就。」
「…貴様はいつもの馬鹿な顔を晒しておればよいのだ。」
元親の首に細い腕が巻きついて、サラリと細い髪が頬を撫ぜる。
「…元就、お前……」
「五月蝿い、黙れ。」
真横に並ぶ白い頬は、珍しく色付いていて、元親の口からは小さく笑いが零れた。
「……有難うな、元就。」
大きな手が腕を掴むのを、元就は静かに受け止めた。
首筋に何かが伝っていくのを、小さく漏れた嗚咽を、震える肩を、元就は黙って受け止めていた。
言葉を埋めたのは
(もう少しすれば、また日が昇るだろうから)
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