夕暮れに似ている(幸佐)
「ねえ旦那。」
「ほむ?」
ぽつりと呼びかければ、旦那は口一杯に団子を頬張ったまま此方を向いた。口の周りについたタレに苦笑いして、其れを拭いてやれば、すまぬと一言。
「俺ってさぁ、変わった?」
「む?」
何の脈絡もなく突然問いかけた言葉に、旦那は少し困惑していた。まぁ流石に今のは俺様が悪いと思い、一から説明する。
「この前さぁ、昔の馴染みに会ったんだ。
そしたら、随分変わったって言われてさ。
そりゃあちょっと位は変わったりもしただろうけど、そんな随分変わったなんて自覚なくて。」
一息にそう言えば、旦那はきょとんとした顔を見せた。かと思えば、薄ら微笑んでまた団子を口に運んだ。その様子に今度は俺が呆気に取られてしまって。
不意に、笑顔の旦那は言葉を吐いた。
「お前は変わった。昔より随分と変わった。
背も伸びたし、髪も伸びた。顔や体も随分と大人びただろう?それにとても強くなったな。
俺の呼び方も変わった。俺に団子を作ってくれるようになった。俺に笑いかけてくれるようになった。
お前は変わったが、俺はそれが嬉しい。お前は正しい方向に変わったと俺は思っている。」
旦那は、酷い人だと思う。時々無自覚にこうやって俺の心を掻き乱してしまうから。ほら、今なんか俺様酷い顔だよ絶対。
堪らず顔を俯けると、あぁと思い出したかの様にまた旦那が口を開いた。
「呼び方が変わったのはあまり嬉しくなかったぞ!昔の様に名前で呼べばよいと何度も言ったというのに、お前は滅多に呼んではくれぬから、少し寂しいではないか。」
ああもう、旦那は本当に酷い。どれだけ追い打ちをかければ気が済むんだろう。もう耳まで熱くなってしまった。
「佐助、呼んではくれぬか?」
そんな眩しい笑顔で言われたら、断れる訳がないのに。
夕暮れに似ている
(赤と橙が混じり合って綺麗だって、紅い人は笑った)
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