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サトリのお膝元
「おい、零子。」
「ひゃいっ!」

急に低い声に呼びかけられ零子は恐れおののきうっかり声がひっくり返ってしまった。

「何か御用でしょうか、不動さん……。」

そんな零子を見かねてか、不動は薄く笑った。
もしもこの人のことを知らなければその表情は若い女性を誘う、なんというかセクシーなもので、きっとオジサマ好きにはたまらないものに思われただろう。
しかし彼はまだ三十路にも達していないので、オジサマなどと言ったら捻り潰されてしまいそうだ。

「俺のことが怖ぇのか。」
「はい、少し……。」

本当は少しどころじゃない。
とってもだ。
彼からはなんというか、手のつけられない猛獣のような凶悪さを感じるのだ。
下手をすれば喉笛を噛み切られてしまいそうな怖さだ。

「こっちに来い。」
「え、あの……。」

おどおどしていると、不動の静かだが怒気をはらんだ声が響いた。

「来ないと内臓引きずり出すぞ。」

これが普段なら朔羅やMAKUBEX、十兵衛などが彼を止めてくれるのだが、今日はあいにくそれぞれ出払っていて(おそらくMAKUBEXと朔羅は隣の部屋で休んでいるのだろう)この部屋には零子と不動のふたりしかいなかった。
零子はおのれの不運を恨んだ。

「ここに座れ。」

指定されたのは不動の膝の上だった。
わけがわからない。
零子はそんな表情で不動を見つめた。
壁にもたれている不動と目線が合う。

「いいから座れ。」

零子は恐る恐る不動の膝の間に座った。
恐怖と緊張とドキドキでおかしくなりそうだ。

(ん?ドキドキ……?)

「おまえの体はあったけぇな。」

後ろから抱きしめられ、零子は不動の立派な体躯や体温を背中で感じていた。
もしかしたらこの男はただ恐いだけの野獣ではないのかもしれない。
不動から抱きしめられるというのは案外悪いものではなかった。


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