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連鎖反応
ACT.1




今、私は地獄の扉の前に立っている。中からは楽しそうに笑う立海テニス部メンバーの声。

今日も私はこの扉をあけ、地獄の時間をあの人達と過ごさなければいけない。





ガチャ…




私はひと呼吸をしてから力強く扉を開けた。









「…また来たのかよ?あーやる気失せるわーその顔見ると。」











私が扉を開けて入ったのはテニス部部室。私が入った途端に楽しそうにしていた会話が途切れ、冷めた目でこっちを見てくる。

私に暴言を吐いて来たのは同じクラスの切原赤也。



私が今ここにいるのは切原…貴方のせいでしょう?












――1ヶ月前―――



「名前ーー!ホントに行っちゃうアルか?」

「うん。でも私が住む所東京に近いからすぐに会えるよ!銀魂学園だって神奈川に1番近い高校なんだし!だから泣かないでー!」





先日、今まで一緒に住んでいて私を娘のように可愛がってくれてた祖母が亡くなった。
そして家賃を払えなくなった私はアパートを追い出されそうになったり、もっと家賃の安い所に引っ越すことになったのだ。

私が前にいた学校は銀魂学園。それはそれはギリギリな学校名だが、私はこの学校を誇りにもつ。



まあ、校長は極度の動物(珍獣?)愛好家だし、教師も天パとかモジャもジャとか痔とか…他人から見たらただの馬鹿ばっかりだけど。しかも問題児は学年関係無しで3Zに入れられるし。




でも銀魂学園にいる人間は、先生も生徒も、そこらの人間にはないものを持っている。


何て言えば良いかわからないけど。ちゃんと自分の人生を歩んでる…っていうか。まぁ、生き方がかっこいいのだ。
古きよき武士道、とでも言うのか。



だから、私はこの学園から離れるのが嫌で嫌で仕方なかった。




でも、仕方ないことだからいつまでもグズグズしてはいられないし、我慢したんだ。
きっと立海も素敵な所だと思っていたから。





引っ越しの手伝いは晋助がしてくれた。晋助は一つ上の学年で、同じ3Zだ。彼氏でもある。


付き合ったのは、私が入学してからすぐ。

告白は晋助からで…


一応晋助は『鬼兵隊』という日本の頂点に君臨する不良グループの頭だったりする。しかも晋助の父親は国立病院の医院長というエリート。


そんな環境がなにもかも違う晋助だけど、晋助は私を本気で愛してくれていると思う。

愛なんて目に見えないけど。
確かに私と晋助は愛し合っている。それだけは言い切れる。





「ありがとね。晋助」

「またなんかあったら言えよ。明日から学校だろ?」

「うん!結構楽しみだったりするよ。」







あの時はとても立海に希望を持っていたんだ。だからあんな会話したんだろう。

今思うとへどがでそうなほど気持ち悪くなる。











―――翌日――――





私は新しく担任になる先生に連れられて2年3組の前にいる。

今は春だから、この学校もクラス替えなんかがあったのだろう。中からはそんな楽しそうな会話が沢山聞こえて来た。



「名前さん。入って来て。自己紹介をしてちょいだいね。」

しばらく廊下で待ってから、担任の先生に教室の中へと呼ばれ、自己紹介をする。


「銀魂学園から来ました名字名前です。銀魂学園では剣道部のマネージャーをしていました。これからよろしくお願いします!」


人見知りな私はこれだけの言葉にもひどく緊張した。だけど、何事も最初は大事だから頑張って笑ったんだ。緊張したけど、早く皆と仲良くなりたいから。



「じゃあ…名前さんは切原君の隣に座ってね。」

「はーい!こっちこっちー!」

切原と呼ばれた男子は私が分かるように声を出してくれた。純粋にそれが嬉しくて。



このクラスの第一印象は『明るくて、優しいクラス』






あくまで第一印象は。











「ねぇ!名前ちゃん!よろしくね!」

「名前ちゃんかわいいよねー!彼氏とかいんの?」




休み時間になると同時に、沢山の人達が話し掛けに来てくれた。

やっぱり緊張はしたけど、質問されたり自己紹介されたりするのが嬉しくて堪らなかった。


その中でも「銀魂学園の剣道部について」の質問が凄く多かったのを今でも覚えている。

銀魂学園の剣道部といえば、土方先輩と総悟と晋助の3人が全国的にとても有名なのだ。イケメンだし剣道が強くて、全国でも右に出る者はいないっていうぐらいだから驚きだ。


だから、その3人について凄く聞かれた。晋助についてははぐらかしちゃったんだけどね。
でも、土方さんと総悟はマヨラーにドSだって言ったら皆ひいてて、それが面白くて沢山笑ったんだ。


そんなこんなで休み時間は凄く楽しくてすぐにクラスに打ち解けられた。皆でアドレス交換もした。


そして授業のときに隣の席の切原君に話し掛けられた。
そう。私の人生を狂わせるきっかけになった会話。



「ねぇ!アンタ剣道部のマネージャーやってたんだろ?」

「うん!そうだよ。」

「じゃあさ、テニス部のマネージャーやんない?」

「テニス部の?」

「一人いんだけどさ!一人じゃ大変そうだから!あっアイツだよ。あそこの窓側の席の!里沙っつーんだ。」

「へぇ、そうなんだ。じゃあさ、今日見学していってもいい?」

「いいぜ!皆いい人達だから!」





――放課後――――


「赤也ー!部活行こーっ!」


放課後になったところで先程テニス部のマネージャーをやってると言ってた里沙ちゃんが私達のところに来た。

まるで子猫のような可愛らしい笑顔と雰囲気が可愛くて。第一印象はそんな感じだった。


「ちょっと待って!名前ー!部活行こうぜ!」

「うん!」

「名字さん?どうして?」

「名前にテニス部のマネージャー頼んだんだよ。お前一人じゃ大変だろ?」

「そーなんだ。うれしー!赤也私の為にしてくれたんだぁ♪じゃ、これからよろしくね!名字さんっ!」


そういってニコッと微笑む彼女は本当に愛くるしいと思った。


この時私はこの可愛い笑顔の裏に全く気付いていなかったのだ。























「ちわーッス!」

「こんにちはぁー!」



勢いよく切原君が開けて入ったのはテニス部部室。



「おう赤也ー!あれ?その可愛い子誰?赤也の彼女?」

「赤也も隅に置けんのう」

すると赤髪のガムを噛んだ人と銀髪の人が話しかけて来た。



「違いますって!マネージャー志望ですよ。」


「はじめまして。名字名前です。」


「へぇーなーんだ、よかった。先越されたかと思ったじゃん!名前ちゃんね?俺丸井ブン太!しくよろ!」


「俺は仁王雅治じゃ。よろしくな。」




やっぱりテニス部の人達も第一印象はとてもよくて、私はすぐにマネージャーをすることに決めた。










クラスの皆も転校して来たばかりの私を気遣ってくれたりするし、テニス部の皆も私にいろいろと教えてくれた。

だから、どうなるかと思った転校は、私にとって凄く気持ちのよいものだった。


銀魂学園とはまた違った良さが立海にはあると思った。それこそ立海は、銀魂学園と違い、普通なのかもしれないが。
それがまた新鮮でよかった。







ずっとこんな楽しい高校生活を送れると思っていたのに。

いや、それ以外は想像もしていなかったかも知れない。


ただ、私の歯車が壊れ始めたのはこの日がきっかけだと思う。


たった一人の少女の手によって。

















どこが悪かったの?

どこで私は間違った事をしたの?

私、なにしたの?

なんで私の歯車は上手く回らなくなってしまったの?

ねぇ…ねぇ……




私が何をしたっていうの?





Next..



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